百万円と苦虫女

タナダユキ監督作品。

この監督、気になっていた。
しかも、主演は蒼井優。

これは面白いに違いない。
観なくてはならぬ。

 
短大を卒業するも就職できず、実家に住みながらフリーターとして暮らす佐藤鈴子(なかなかなネーミング。蒼井優が演じる)。

バイト仲間のリコとルームシェアしようとするも、リコは自分の彼まで一緒に住ませようとし、しかも実際に住み始めると、リコと男は分かれ、なぜかまったく関係がないその男とルームシェアすることに。

この時点で、鈴子の幸の薄そうなこと、周りに押し切られる性格であることが濃厚に伝わってくる。
人に合わせて、諍いなく生きていこうとする鈴子は、魅力も薄め。それを蒼井優がうまく演じている。

映画の冒頭で、拘置所から出た鈴子が、「シャバダバシャバダバ~」と懐かしい「11PM」の主題歌を歌っている雰囲気からは、てっきりかなりいっちゃってる奴かと思いきや、そうでもない。

前科者として生きねばならないことになり、とりあえず100万円貯まったら引越ししバイトを探し、また100万円貯まったら引越しし、を繰り返すことに。

変わった女、変わったストーリー。

ゆるいストーリーながらも、鈴子が各地域で人と接しながら少しずつ変化していくさまは、さりげなく、おしつけがましくなく、好感が持てる。
監督の、映像や構図、モノ(例えばカーテン)へのこだわりも随所に感じられて楽しめる。

良い監督、良い作品との思わぬ出会いだった。

以下、ストーリーを振り返りながら、気に留まったところを。
ネタバレあり

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人とはあまり関わりをもたなかった鈴子だが、地方都市のバイト先のホームセンターで出会った中島(森山未來)には惹かれ、つきあうことになる。
(お互いが好き同士ということがわかり、彼の部屋へ一緒に向かう際に手をつなぐシーンが初々しい。鈴子が弟と手をつなぐシーンも後から出てくるが、手をつなぐという行為が象徴的にも使われているかなという気がした。)

また百万円貯まったら彼のもとを去るのか、それとも今回こそは変わっていくのか……と展開を見守っていると、金の無心ばかりする彼に対する不信感が募り、100万円とは関係なく去ることを決断。

しかし、実は、彼は彼女に百万円を貯めさせないために、敢えてしょっちゅうお金を借りていた。そして、最後駅まで鈴子を追いかけるが……

このくだりは決して悪くはないんだが、二人の会話で険悪な雰囲気になったときに、中島から真実を告げる方がやはり自然かなぁとも思う。

サイドストーリーとして、姉である鈴子に対しては大きな口をたたくが、学校ではいじめられっ子の小学生の弟の生活がある。彼は鈴子の姿に影響を受け、少しずつ強くなり、最後には弱さを克服する。それを手紙で知った鈴子は、むしろ弱い自分が情けなくなり玄関先で涙を流す。これも悪くない。

鈴子をはじめ登場人物のキャラクター設定が適度にゆるくて、少し変わっていて絶妙。ストーリー展開にも安心感がある。最後がわかりやすいハッピーエンドじゃないのも高評価。

最近洋画を連続して観ていたからなおさら、話の隅々まで理解できる本作に安心させられた。

「苦虫女」という言葉は、結局一度出て来なかったのが気になるところ。
鈴子のキャラクターも「苦虫」って感じでもないし。

他の作品も観てみたい監督。

最後に、蒼井優劇場を。

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女子好みっぽいアルコールを飲みながら、部屋着で中島のノートを眺める。

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畳に寝転がる鈴子。複数回出てくる、床や畳に寝転がるシーンも脳裡に残る。

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桃の村で、桃娘になってくれという依頼を断り、部屋で憂鬱そうな鈴子。

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鈴子お手製のカーテン。いくつかのシーンで印象的に使われている。

蒼井優もしくは事務所の映画を見抜く選定眼が素晴らしいのか、蒼井優が出てる作品はやはり面白い。

製作総指揮:前田浩子
製作:木幡久美 / 田中正
監督・脚本:タナダユキ
撮影:安田圭
美術:古積弘二
音楽:桜井映子 / 平野航
衣装:申谷弘美
主題歌:原田郁子(クラムボン)「やわらかくて きもちいい風」
出演:蒼井優(佐藤鈴子) / 森山未來(中島くん) / ピエール瀧(桃農家の長男) / 竹財輝之助(海の家で声をかけてくる男) / 齋藤隆成(鈴子の弟) / 笹野高史(桃の村の喫茶店マスター) / 嶋田久作(刑務官) / モロ師岡(刑事) / 石田太郎(桃の村の村長) / キムラ緑子(鈴子の母) / 矢島健一(鈴子の父) / 斎藤歩(海の家の主人) / 安藤玉恵(海の家のおかみさん) / 堀部圭亮(ホームセンターの上司) / 平岩紙(ルームシェアしようとしていたバイト仲間) / 江口のりこ(弟の担任) / 悠城早矢(ホームセンターの新入り) / 弓削智久(猫を捨てた同居人) / 佐々木すみ江(桃農家のお母さん)
 
【世間の評価】 ※2016.2.18時点
CinemaScape: 3.8/5.0 (94人)  
Yahoo! 映画: 3.99/5.00 (945人)
IMDb: 7.3/10 (631人)
 
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