astoryofyonosuke

独特のキャラクターの人物、横道世之介を主人公にそえたストーリー。

これといった際立った特徴があるわけではない。聖人でもない。ヒーローでもない。
それでも、みんなに無意識に愛され、後々時間が経ってからみんながふと思い出し、みんなが笑顔になる。世之介はそんな存在。

その役を、高良健吾が好演していた。
彼に対しては尖った役のイメージを持っていたが、こういった柔らかい役もうまくこなすことがよくわかった。

「横道世之介」のあらすじ

1987年、大学進学のために長崎の港町から上京してきた横道世之介。周囲の人間を引きつける魅力を持ち、人の頼みを断れないお人好しな彼だったが、嫌みのない図々しさが人を呼ぶ。流されるままにサンバサークルに入ったり、一目惚れした年上の女性・千春に弟のふりをしてくれと頼まれたり、世間知らずの社長令嬢・祥子に振り回されたり、友人の倉持に金を貸したりと、様々な人々と出会いながら濃厚な1年間を過ごす。そして周囲の人々にとっても、世之介との出会いは青春時代の大切な思い出となる。やがて世之介に起こったある出来事から、その愛しい日々と優しい記憶の数々が呼び覚まされていく…

時代は世之介が法政大学に入学した87年春からの1年間が中心。
ところどころで、当時横道と親しくしていた人間が、現在(2003年頃)、ふと世之介の事を思い出すシーンが挟まれる。

尺は2時間40分ほど。
世之介がわかりやすい魅力をたたえた役柄ではないこともあり、その魅力を伝えるのに多くの時間をとっている。
しかし、その長尺が長くもつらくも感じない作りになっている。

彼の魅力を伝えるそれぞれの友人・知人・恋人とのストーリーが、いずれも力が抜けていていい。
大きな事件があるわけでもなく、わかりやすい主人公の成長ストーリーでもないが、本質的に悪い人が登場しないこともあってか、思い返すとあたたかい気持ちになれる。そんな珍しい映画だ。

以下、ネタバレを含みつつ、印象に残ったシーンや役者を振り返る。

 - ad -

冒頭、世之介が引っ越してきたアパートの、二つ隣に住む江口のりことの会話からして緩い。「ビーフシチュー食べる?」と聞かれ、「じゃあ、、、はい」と答える感じ。
astoryofyonosuke_08
江口さん最高。安心感ある。

大学の教室で加藤(綾野剛)と初めて会うシーンもいい。大学の講義の後、以前に学食で50円を貸してもらった別の人と間違えて加藤に声をかけるも、それは別人だと言って加藤は席を離れようするが、世之介はまったく意に介さない。
astoryofyonosuke_01
初対面の加藤に対して、小指を立てて千春さん(伊藤歩)について得意げに話す世之介。可愛らしくもあり、憎らしくもある。
astoryofyonosuke_06
もうお互い知ってるだろと言って学食へ加藤を連れて行く世之介。この一連のシーンはかなりのお気に入り。
学食で世之介は焼きそばや何かをバクバク食べてるが、加藤はカロリーメイト的なものしか食べていない。そこにもキャラクターが現れている。

お互い安くなるからといって、加藤に誘われ教習所へも一緒に行く世之介。そこからダブルデートの話が生まれる。
astoryofyonosuke_02
加藤と祥子(吉高由里子)を待つ、世之介と戸井睦美(佐津川愛美、ドラマ『最後から2番目の恋』の印象が強い)。世之介の腰への手の置き方にキャラが出てる。そしてこの後、彼のよくある癖の一つである、自分の服の匂いをかぐ仕草のシーンへと続く。

加藤を演じているのは綾野剛だが、はじめ本人だと気づかなかった。「自分は男が好きで、時々ゲイが集まる公園に刺激を求めてやってくるんだ」と世之介にカミングアウトする。普通に考えると、こんな場で、しかも大学時代という人間関係が狭い時期に、よく告白したものだと思う。
(そういえば、『怒り』でも綾野剛はゲイ役だった。不自然さがない。)
それを受けた世之介はたいして気にした風もなく、ここで待ってるから行け行けと行って帰るわけでもない。
astoryofyonosuke_04
横に座った加藤に自分の食べかけのスイカを割ってわたすあたりがキャラクターが出てていい。そして、加藤もそれを嫌がらないところがまた微笑ましい。

加藤とのダブルデートで、吉高由里子演じる祥子と出会う。
astoryofyonosuke_03
最初フォークとナイフでハンバーガーを食べようとするも難しく、おもむろに手づかみで食べ、それを見た祥子も同じように食べ二人で笑い合う微笑ましいシーン。

祥子を演じる吉高由里子は、べたべたなお嬢様言葉を使いつつ、けなげなチャーミングさがあって良かった。
astoryofyonosuke_12
祥子の家で、「僕たちつきあっているんだよね?」という会話の流れで、恥ずかしくなってカーテンの中に隠れる祥子。これは反則、可愛い!

世之介の帰省に合わせて長崎の実家にまで駆けつけたり、祥子は常識よりも直感に従うタイプ。
現在の翔子は海外、とくに途上国にかかわる仕事をしているよう。色も黒くなり、お嬢様言葉も抜けている。

世之介はある日手にしたカメラで、同級生である倉持(池松壮亮)と阿久津唯の子どもを撮ったり、ヨーロッパへ2週間の留学に行く祥子の姿を撮ったりする。それを見た祥子は、「現像したら世之介の次に私に見せてください」「世之介の作品を最初に見る人間になりたいから」と言う。この可愛らしさ。
「現像したら押入れに入れてしまっておく」と答える世之介。
しかし、その後二人に何があったのかはしれないが、その写真は祥子に披露されずじまいで時は過ぎる。

祥子のもとにそれが届いたのは、それから10年以上が経ち、翔子がなつかしくなって世之介の実家に電話をし、そこで世之介が亡くなっていたことを知り、遺品に祥子宛てのものがあったことを聞き、それを送ってもらってから。
そこに写っているのはたいした内容ではないが、たしかに横道が最初に撮ったもの。それを見ながら翔子は当時を思い出す。

スキーで祥子が骨折し、その退院当日、今日の夜はホテルかどこかで一緒にいたいと懇願する世之介。「この足の状況で?」と祥子は当然戸惑うが引かない世之介。その後、新宿を二人で歩いたことを思い出す翔子。
astoryofyonosuke_05
タクシーの中でかすかに涙をうかべながらも笑顔になる。このショットも素敵。

その他、脇を固める役者勢も豪華。

池松壮亮は相変わらず、悪いやつではないが人をちょっと苛つかせる雰囲気を出すのがうまい。
astoryofyonosuke_07
彼女・唯とのなれそめのストーリーを合宿の風呂場で世之介に話すシーンはなんだかリアリティに欠ける嫌いがする気もしたが、そもそも若い頃のそういった話はフワフワしてて、聞いてるほうもなんだかリアリティを感じにくいものかもしれない。

パーティガール的な千春は、世之介に強い好意をいだいていたわけではないし、そんなに接した時間が長いわけではない。その後、ラジオのパーソナリティとなった彼女だが、その番組中に、世之介が事故で死んだことをニュース原稿で知る。
astoryofyonosuke_09
ニュースを知った事でテンションが下がり、プロデューサー的な男(ムロツヨシ)にそれを指摘される。その場で千春が世之介の事を口にしたりはせず、放送後二人は食事なりに行くよう。
彼女との距離感だとこれぐらいが自然だし、一人の人の死が他人に与える影響を静かに感じられるシーンとしては悪くなかった。

大学の同級生、阿久津唯を演じる朝倉あき。
astoryofyonosuke_10
大学教室でのこの登場シーンはかなり可愛かった。この子がきっとヒロインだなと思っていたら、見事にあてが外れた。
世之介の名を聞き「落語家さんみたいな名前だね」と言うが、”武士みたい”ではなく、”落語家みたい”という感性に変に感心してしまった。

astoryofyonosuke_11
高校時代に恋人だったこの子がよもや黒川芽以だとは思わず。昔よりほっそりした印象。

なお、全般的に自然なストーリーの中で、違和感があり、印象に残ったシーンがある。それは、祥子がスキーで骨折し、世之介が見舞ったシーン。
ここで、病室には祥子の家のお手伝いさんもいるのに、気にせず「世之介!」「祥子!」と何度も呼び合う二人。
これだけでも違和感があるが、何よりも、それを聞いているお手伝いさんが、涙を流すところに「ん?」となった。
広岡由里子
お手伝いさん役の広岡さん、セリフはないものの、印象には強く残る役柄だった。

 
最後にチラシのデザインを紹介。
ちなみに、一番上の写真はチラシではなくDVDパッケージ。
astoryofyonosuke_another
だいぶ印象が変わる。情熱の赤!

製作総指揮: 由里敬三、佐藤直樹
製作: 西ヶ谷寿一、山崎康史、西宮由貴、宮脇祐介
監督: 沖田修一
脚本: 沖田修一、前田司郎
原作: 吉田修一
撮影: 近藤龍人
美術: 安宅紀史
音楽: 高田漣
主題歌: ASIAN KUNG-FU GENERATION「今を生きて」
衣装: 纐纈春樹
出演: 高良健吾(横道世之介)、吉高由里子(与謝野祥子)、池松壮亮(倉持一平)、伊藤歩(片瀬千春、弟の代わりのバイトを依頼される)、綾野剛(加藤雄介)、朝倉あき(阿久津唯、大学の同級生、倉持と結婚)、黒川芽以(大崎さくら、高校時代の恋人)、柄本佑(小沢、同郷出身の同級生、マスコミ寄り)、佐津川愛美(戸井睦美、加藤と教習所で知り合う、祥子の幼馴染)、大水洋介(石田健次、サークル&バイトの先輩)、田中こなつ(清寺由紀江、サンバサークルの先輩)、江口のりこ(小暮京子、隣の隣の部屋の住人)、黒田大輔(川上清志、従兄)、眞島秀和(加藤の相方)、ムロツヨシ(前原、千春のラジオ番組関係者)、渋川清彦(飯田)、広岡由里子(与謝野家のお手伝いさん)、堀内敬子(与謝野佳織、祥子の母)、ARATA(室田恵介、隣人のカメラマン)、國村隼(与謝野広、祥子の父)、きたろう(横道洋造、父)、余貴美子(横道多恵子、母)、蕨野友也、奈良木未羽、井上肇(祥子の運転手)、宇野祥平
編集: 佐藤崇
製作会社: 「横道世之介」製作委員会
配給: ショウゲート
公開: 2013年2月23日(日)
上映時間: 160分
興行収入: 2億1700万円
 
@DVD