awomanundertheinfluence

事前にあらすじを読んで、観ている側の気持ちが揺さぶられる映画だろうと思ってはいたが、案の定そのとおり。

昨年ようやく観ることができた『グロリア』と同じく、ジョン・カサヴェテスが監督、実生活の妻であるジーナ・ローランズが主演を務める。

 
邦題のとおり、小さい子どもを三人持つ主婦のメイべル(ジーナ・ローランズ)が壊れていく話。いや、厳密に云うと、映画のシーンが始まる前に既にメイベルは壊れているともいえる。
原題に”A Woman Under The Influence”とあるとおり、影響を受けているのがメイベルであり、影響を与えているのは旦那のニック(ピーター・フォーク)を中心とした、彼女をとりまく人間だ。

冒頭から、いかにも情緒不安定そうなメイベル。

工事夫(肉体労働的な仕事)をするイタリア系の旦那ニック。ボッシーでありつつ仲間想い、家族想い。ただし直情型で、不安定な妻の姿に、彼自身も感情のコントロールがどんどん下手になり、しまいには妻に手を出してしまう。

ニックの母親もヒステリックで、メイベルを診にきた医者に対し、メイベルのおかしさを喚き立てる。

医者は医者で、役目を果たそうとしつつも、メイベルをなだめることができない。到底プロとは思えない対応に見える。

もちろん、もともとメイベル自身が不安定さを抱えているのだが、彼女をとりまくメンツがその症状を悪化させているように思える。

その一方、ニックはニックなりに家族を良い方向に持っていこうといろいろ努力する。決してそのやり方はスマートではなく、劇的に何かが変わるということはない。が、何も変わらないわけではない。

そういう危うさを抱えながら、日々を過ごしてる家族がたくさんいることを、監督は伝えたいのだろう。
感覚的に自分にしっくりくる内容ではなかったが、感情は動かされる内容ではあった。

原則的には、メイベルが周りから影響を受けておかしくなっていく(おかしくなっている)映画だが、よくよく考えると、逆にメイベルがニックたちに影響を与えている面も少なくない。
メイベルにひきずられて、登場人物たちの精神状態も普通ではなくなる。

感情を吐露するシーンが多いこともあって、全編を通して考えさせるセリフが散りばめられている。そういう意味でも味わい深い作品ではある。

以下、ネタバレを含みつつ、印象に残ったシーンを振り返る。

 - ad -

冒頭、3人の子どもを預かってくれる母親に対して神経質にいろいろと注文を付けるメイベル。「子どもを叱らないで」とも云う。そして、子どもと母親が去るや否や、預けたことを後悔する。この不安定さ。

awomanundertheinfluence_01
子どもを送り出して後、一人、食堂で夫の帰りを待つメイベル。なんともいえない表情をするジーナ・ローランズ。
awomanundertheinfluence_02
子どもたちがスクールバスで帰ってくるのを待つメイベル。時計をもっておらず通行人に時間を聞くが、その聞き方が偏執的で皆足早に逃げる。なかなか面白いシーン。
awomanundertheinfluence_05
ようやくスクールバスが到着して、本当に嬉しそうなメイベル。
awomanundertheinfluence_03
スパゲッティディナー。穏やかににんまりとしたメイベルの表情が印象的。
awomanundertheinfluence_08
これまた良い表情のメイベル。ジーナ・ローランズは、『グロリア』での颯爽とした姿とは大きく異なる役柄を見事に演じていた。ふと、『ブルー・ジャスミン』で主役を演じていたケイト・ブランシェットを思い出した。

awomanundertheinfluence_09
しばしば周りを気にせず、一人の世界に入り踊り出すメイベル。観ている最中は、こちらも心配になってしまうが、こうやって静止画で見ると、穏やかな表情をしており、安心感がある。不思議なものだ。

ニックなりのコミュニケーション方法が披露されているシーンを2つ。
awomanundertheinfluence_04
メイベルの母に預けられていた子ども3人が帰宅。ニックはすぐに学校に行こうとする子ども3人をベッドの上に集め、さらにはメイベルの母もベッドの上に強引に呼び寄せる。
ニックならではの家族の一体感を持たせようとしている姿が伺えるシーン。メイベルは何て表情をしているんだ(笑
awomanundertheinfluence_06
ビーチからの帰り、ピックアップトラックの後ろの荷台に子どもと一緒に乗るニック。
6パックの缶ビールを開け、飲みたいという子どもたちに少しずつ回し飲みさせる。
ビーチに向かう際は彼の強引な提案に戸惑っている様子の子どもたちも、このシーンではリラックスしている様子が伺える。

脇を固める役者陣も悪くなかったが、特に強い印象を残したのはニックの母を演じるキャサリン・カサヴェテス。
awomanundertheinfluence_10
なかなか強烈な役柄だった。

また、メイベルの父(フレッド・ドレイパー)が、”私はスパゲッティマンじゃないから、スパゲッティはダメだ”と主張するくだりは唐突だったし、意表を突かれた。要は、イタリア系のニックに影響されて、スパゲッティばかりの娘の家での食事に嫌気がさしているのだろう。さらに云うと、こんなイタリア男と結婚したから娘は精神が不安定になったとさえ思っているのかもしれない。

 
病院での6ヶ月の治療を受け、家へ戻るメイベル。感情を抑えようと努めるメイベルだが、相変わらずの周りの無神経な対応に、混乱が生じる。

そこで案の定、一騒動が起こる。

騒動の間、ニックは子どもらを子ども部屋に何度も連れていこうとするが、すぐに走って母親のもとへと移動する子どもたち。そして、一騒動のあと、子どもの部屋で、三人の子ども一人一人に優しく語りかけるメイベル。愛おしくキスする子どもたち。
awomanundertheinfluence_07
次男のベッドにて。この後、次男はメイベルの鼻に何度もキスをする。
母親の子どもへの愛情はもちろんだが、子どもから母親への強い愛情も感じるシーンではあった。

ラスト、ダイニングを片付ける夫婦二人。テーブルをはじに寄せ、折りたたみのベッドを引き出す。枕をクローゼットから取り出し、ベッドの上に軽く投げるメイベル。リビング側のガラスドアにカーテンをひき、服を脱ぐのを手伝ってもらうメイヴェル。その表情にはリラックスさが伺える。

それまでのバタバタから一転して、穏やかな夫婦の姿がそこに。不思議な感覚に包まれるシーンだ。

これで終わるわけだが、はたから見るとメイベルがこの環境でうまくやっていけるようには到底思えない。が、意外とこういう家庭は多いのかもしれない。そんな、家族の良さと、大変さが凝縮されたストーリー。

なお、自分が観たリマスター版は146分だが、劇場公開版は155分だった。DVDに収録されていた予告編を見ると、どうやらリマスター版にはないカットが使われてるいるようで、予告編に使われるぐらいの印象的なシーンが見れてないというので、ちょっと損した気分になった。

 
最後にバージョン違いの、チラシもしくはDVDパッケージのデザインを紹介。
本作は時代が古く、かつ、有名作ということもあり、バリエーション豊か。
awomanundertheinfluence_another
上でも紹介した、心細そうなメイベルをフィーチャー。
awomanundertheinfluence_another2
ベッドに横たわるメイベル。比較的新しいもの。
awomanundertheinfluence_es
スペイン語版。イラスト調。
awomanundertheinfluence_jp
日本語版。これも比較的新しいバージョン。

製作: サム・ショー
監督: ジョン・カサヴェテス
脚本: ジョン・カサヴェテス
撮影: マイク・フェリス、デビッド・ノウェル
美術: フェドン・パパマイケル
音楽: ボー・ハーウッド
出演: ジーナ・ローランズ(メイベル・ロンゲッティ)、ピーター・フォーク(ニック・ロンゲッティ、工事夫。イタリア系)、マシュー・カッセル(トニー・ロンゲッティ、息子)、マシュー・ラボルトー(アンジェロ・ロンゲッティ、次男、ベッドでメイベルの鼻にキス)、クリスティナ・グリザンディ(マリア・ロンゲッティ、娘)、フレッド・ドレイパー(ジョージ・モーテンセン、メイベルの父)、レディ・ローランズ(マーサ・モーテンセン、メイベルの母)、キャサリン・カサヴェテス(マーガレット・ロンゲッティ、ニックの母)、ドミニク・ダヴァロス(ドミニク・ジェンセン、メイベルが子守で預かった少女)、アレクサンドラ・カサヴェテス(アドリエンヌ・ジェンセン、メイベルが子守で預かった少女)、ジョージ・ダン(ガーソン・クロス、メイベルがバーでひっかけた一晩の相手)、マリオ・ギャロ(ハロルド・ジェイセン、メイベルに預けた子どもの父親)、エディー・ショー(ゼップ医師)、チャールズ・ホーバス(エディ、ニックの仕事仲間、ニックの苛立ちが原因で仕事現場で転がり落ちて大怪我を負う)、レオン・ワグナー(ビリー・ティドロウ、スパゲッティディナーの場で歌うようにメイベルにせまられる)、 Angelo Grisanti(Vito Grimaldi、仕事仲間、一緒にビーチへ)、Vincent Barbi(仕事仲間)
編集: デヴィッド・アームストロング、シーラ・ヴァイスルティア
製作会社: フェイシズ・インターナショナル・フィルム
配給: フェイシズ・インターナショナル・フィルム(米)、シネセゾン(日)
公開: 1974年11月18日(米)、1993年2月27日(日)
上映時間: 155分、146分(短縮版)
 
@DVD