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アサイヤス監督作を観るのは本作が初めて。
初めて観る作品にして、トータル5時間半を超える長尺。

第1部、第2部、第3部に分かれているのを、それぞれ別々の日に観て。

 
1973年からの20年ほどの話。
大義(cause)に従って人を殺すテロリスト達。
そこで頭角を現し、世間から注目を集め、世界中の警察から要注意人物と見なされるカルロス。
彼を必要とする組織があり、そこを渡り歩いていく。

5時間を超す話だけあって、どっぷりと、彼をとりまくストーリー、彼のキャラクター、身にまとう雰囲気に取り込まれていく。
テーマは異なるが、イタリア映画『青春の輝き』を観た時にも同様のものを感じた。

勢いがあり怖いもの知らずな20代から、ポジションも確立され多少の余裕が出て家族を持つ30代、そして時は流れ、身体にもガタが来、お払い箱になっていくところまで。

途中、間延びして眠気を誘う箇所もあるが(特に第二部の後半)、この作品は、三部まで観てようやく語れる作品だ。(二編にして、「前編」「後編」のような名前の付け方のほうが適している気はした。一部も二部も終わり方がやや尻切れで、そこで観終ってしまうと、消化不良感が強い)

三部観て、じわじわ面白さがわかってきた。
ヒーローやカリスマとして持ち上げるのではなく、仲間や家族、テロの対象者とのコミュニケーションを通して、彼の像を浮かび上がらせている。どちらかというと冷静なトーンで。

時間があれば、もう一度見返してみたいと思わせる作品だった。

以下、ネタバレを含みつつ、印象に残ったシーンを振り返っていく。

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第一部、野望篇。1970年代前半。
イスラエルを敵とし、日和るアラファトも裏切り者だとみなす。日本赤軍とも革命の同志という立ち位置で、助け合う。

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1974年、オランダ・ハーグのフランス大使館襲撃に向かう日本赤軍の三名。

また、別件で、カルロス自身は現場にはいなかったが、パリの空港でイスラエル旅客機をロケットランチャーで狙うという、大胆というか、思慮が浅い計画には、別の意味で度肝を抜かれた。

第一部の中では、裏切った仲間のアンドレ(ファディー・アビー・サムラ)を、警官もろとも殺害したカルロスに対し、「殺すかどうかを決めるのは俺だ」 とPFLPのボスであるハダド(アッマード・カーブル)にイエメンのアジトで激昂されるシーンが特に印象に残る。
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カルロスに銃を向けるハダド。迫力が違う。ただのおっさんじゃなく、常に命が危険にさらされている組織のボスという立場が、滲み出ている名シーン。

英雄のように祭り上げられるカルロス。
組織に属しているからというのもあるだろうが、彼を助ける女たちの存在。
それを納得させる魅力は確かに備えている。
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恋人と手榴弾を使って戯れるカルロス。

イエメンで、ほとぼりが冷めるまで、やることもやくただ身を隠している間に激太りするカルロスの姿には結構なインパクトがある。太っている状態での登場シーンは必ずしも多くないから、そのために太っているとしたら驚き。特殊メイク等も使っているのかもしれないが。

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ドイツ革命細胞(通称RZ)のメンバーである、アンジー、ブリギッテ、ボニ。いずれも印象に残る風貌。おそらくこれはイエメンのアジトでのシーン。

性器丸出しの全裸シーンが何箇所か。さすがにボカシを入れないと日本では放映できないレベル。それもセックスシーンとかではなく、風呂場だったり一人での寝起きだったりのシーンでというのが、面白くはある。

つくづく思うのは、こういう類の映画のベースは『ゴッド・ファーザー』で作られている。そう見られていて、それの上を行く作品を作らねばならない作り手も大変だ。

前半終了時点での評価は3.0。
ぼちぼち悪くはないが、「これはすごい!」と興奮させるほどの強さもない。

 
第二部、栄光篇。
1975年ウィーン。

OPECの会議を襲い、参加している各国の閣僚を人質にとる。セキュリティが甘い時代。
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OPEC会議の襲撃に向かう面々。右から、目つきの鋭い短髪のハリド、タバコを吸うアンジー、黒い帽子のナーダ、そしてカルロス。

この襲撃からの、飛行機での国をまたいでの移動シーンは、第二部のクライマックスだろう。

とりわけ強い印象を残したのが、女性メンバーであるナーダ(ジュリア・フンマー)。
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警察らしき男に銃をつきつけ、「お前は警官か」と問い、「そうだ」と答えるとエレベーターを開けて向こうを向かせ、向いたとたん首の後ろを撃ち抜き、エレベーターを下に降ろす流れには息を飲んだ。

第一部から第三部まで通して、残虐なシーンが決して多くはない作品の中で、この警官の殺害は際立っていた。

OPEC会議の占拠自体はほぼ成功。
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サウジアラビアのヤマニ石油鉱物資源相(バディー・アブ・シャクラ)に銃を向けるカルロス。

その後、アルジェ、トリポリ経由でバグダッドに行こうとするが、リビアがテロリストに一切協力せず、着陸許可すら出さない。強引に着陸するも交渉は遅々として進まない。
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OPECの閣僚らを乗せた機内のナーダとハリド。

機内での管制塔との攻防は見応えがあった。
ハリドが気持ち悪くなったり、ナーダがヒステリックになったり、彼らもじわじわと追い込まれていく。

最終的にリビアとは交渉決裂。仕方なくアルジェに引き返し、2000万ドルの身代金と引き換えに人質を解放する。
この判断で仲間からも信頼を失い、ボスのハダドからも破門にされる。
強盗じゃなく革命のために闘っているのに、お前は金に目がくらんだのかと。

最低限の協力のみしかしないパイロットの姿勢が興味深かった。飛行機から降りる際にも、カルロスが差し出した握手を拒む彼ら。
テロリストだけでなく、一般の市民が主義主張を持って生きていることがわかる。

PFLPを離れたカルロスだが、その後、東ドイツのシュタージ(国家保安局)、ソ連やシリアなどと接触し働く場所を得る。
東西冷戦、中東を中心にキナ臭い時代。テロリストが活躍できる場はいろいろとあったのだ。

そして、ドイツ人女性マグダレーナ(ノラ・フォン・バルトシュテッテン)との蜜月。
彼女との情事シーンがなぜ挟まれたのかは不明だったが、その最中も冷めた視線のカルロスが印象的。
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独特の妖艶さを放つマグダレーナ。
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マグダレーナをもう1枚。

タバコに時代性を感じる。後々殺害しようと計画していたヤマニに勧めたり、機内で吸ったり。
本当に、ちょっとした合間合間に、隙間を埋めるようにタバコを吸う。

第二部は、OEPC襲撃シーンや、仲間たちとの関係性など、緊張感のオンオフの差が激しかった。
ラスト20分ほどがやや間延び。

二部終了時点でも、評価は3.0のまま。

 
第三部、完結篇。

カルロスも年を重ね、行動にも規律が多少出て来たからか、見ていて疲れない。
といっても、30の誕生日を迎えるシーンがあったりとまだまだ若い。

西側に記事を売ったライターを、首の後ろから撃ち抜けという指示を出して殺害させたり、パリの雑誌編集部を狙ったテロを起こしたり。
このテロは、2015年のISによるシャルリー・エブド襲撃事件を想起させた。フランスというと芸術のイメージがやたらと強いが、移民を抱えているという点からいろいろと経験している国なんだと認識を新たにした。

比較的長い期間、ブダペストに拠点を置いていたカルロスだが、これはKGBからの圧力を受けたハンガリー政府が黙認していたためだ。
このため、ハンガリーとしても無下にはできないが、とはいえ他国、特に西側からテロリストの巣窟として睨まれたくはない。
その、国側の政治的立ち位置が面白い。

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くつろぐスティーブ、カルロス、アリ。

その後、ハンガリーから出て行けといわれ、シリアに移動。
そのタイミングでベルリンの壁が崩壊し、冷戦は終わり、彼らの価値もなくなり、シリアからも追われる。
リビアに行っても、飛行機到着と同時に別室に誘導され、滞在は許されないシリアに帰れと告げられる。

妻のマグダレーナは娘とともにカルロスの元を離れ、カルロスの母が暮らすベネズエラへ。(これも不思議な関係性)
カルロスは新しい妻とともにスーダンへ。
睾丸内の静脈瘤に苦しんだり、太り過ぎを気にして脂肪吸引をしたり世俗的に。
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だらしなく太ったカルロス。

最終的には、もっとも多くの被害を受けているフランスに身柄を渡され、ジ・エンド。

いつか殺されるとずっと思っていながら、日々毅然と生きる。時に感情は爆発するも、最後は理性的。妻のヒステリーにも乗らない。カルロスの置かれている状況の変化、人間的変化に見応えがあった。

なお、自分の趣味だが、この時代のヨーロッパ車はたまらない。高級車じゃなく庶民が乗る車であっても、形もいいし、色使いにもそそられる。
ルノー、シトロエン、メルセデス、ビートル etc..

 
最後に、バージョン違いのDVDパッケージを紹介。
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まったく印象が変わってしまう。”CARLOS THE JACKAL”という名で上映・DVD販売された地域もある。

製作総指揮: ラファエル・コーエン
製作: ダニエル・ルコント
監督: オリヴィエ・アサイヤス
脚本: オリヴィエ・アサイヤス、ダン・フランク
原案: ダニエル・ルコント
撮影: ヨリック・ル・ソー、ドニ・ルノワール
美術: フランソワ=ルノー・ラバルト
衣裳: ユルゲン・デーリング
編集: リュック・バルニエ、マリオン・モニエ
出演: エドガー・ラミレス(カルロス/イリッチ・ラミレス・サンチェス)、ファディー・アビー・サムラ(アンドレ/Michel Moukharbel、PFLPヨーロッパ支部代表、逮捕されカルロスの情報を喋るがカルロスに殺される)、アッマード・カーブル(ワディ・ハダド、PFLPリーダー)、クリストフ・バッハ(アンジー、ドイツ革命細胞、通称RZメンバー、OPEC襲撃実行犯)、ノラ・フォン・バルトシュテッテン(マグダレーナ・コップ、最初の妻)、ロドニー・エル・ハッダード(ハリド/Anis Naccache、PFLPメンバー、超短髪、OPEC襲撃)、ジュリア・フンマー(ナーダ、RZ、OPEC襲撃、ヒステリック)、アレクサンダー・シェアー(スティーブ/ヨハネス・ヴァインリヒ、RZ、最後まで一緒に行動していた仲間)、タラル・エル=ジョルディ(アリ、シリアとのつながり強い)、カタリーナ・シュトラー(ブリギッテ・クールマン、女性、RZ、スタイル良し)、アリョーシャ・シュターデルマン(ボニ、RZリーダー、太っちょ)、ギョーム・ソレル(ブリュノ・ブレゲ)、ユーレ・ベーベ(クリスタ=マルゴ・フレーリッヒ、RZ、キャピトル号爆破事件に参加)、ジャン=バティスト・モンタギュ(エリック、バスク祖国と自由、カルロスらから武器を購入)、フアナ・アコスタ(ニディア、ロンドンでの女友達)、アンドレ・マルコン(フィリップ・ロンド将軍、フランス国土監視局、通称DST、カルロスをスーダンからパリへ連行)、ヤニリス・ペレス(アンセルマ・ロペス、パリでの愛人)、ラザン・ジャマル(ラナ・ジャッラール、二番目の妻)、マルタ・イガレータ(アンパロ、パリでの愛人)、エリック・エブアニー(ハッサン・アル=トゥラビ、スーダン、民族イスラーム戦線、カルロスをDSTへ引き渡す)、オリビエ・クリュベイエ(ジャン・エランツ警視、フランス国土監視局、トゥーリエ街事件の被害者)、バディー・アブ・シャクラ(シェイク・アハマド・ザキ・ヤマニ、サウジアラビアの石油鉱物資源相)、ニコラ・ブリアンソン(ジャック・ベルジェス)、ラミ・ファラー(ジョセフ)、カール・フィッシャー(東ドイツ国家保安省、ハリー・ダール大佐、カルロスたちの動きを監視)、Robert Gallinowski(東ドイツ国家保安省、ヘルムート・フォイクト少佐、カルロスたちの動きを監視)、アントワーヌ・バラバン(シリア、アル・フーリー将軍、編集部襲撃を依頼)、ファディ・ヤンニ・トゥルク(シリア、ハイサム・サイード大佐、将軍の失墜後、カルロスらに国外退去を通告する)
配給: マーメイドフィルム
上映時間: 326分
公開: 2010年5月19日(Cannes Film Festival)、2011年1月8日(日)
 
【世間の評価】 ※2017.2.16時点
CinemaScape: -/5.0 (-人) 
Filmarks: 3.9/5.0 (81人) 
Yahoo! 映画: 3.60/5.00 (10人)
IMDb: 7.7/10.0 (10,668人)
Rotten Tomatoes(Critics): 8.0/10.0 (64人)
Rotten Tomatoes(Audience): 3.9/5.0 (5,763人)
 
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