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何と評価していいのかが難しい作品。

“夢”の話だけあって、それぞれの話の筋は、あってないようなもの。いずれにしても、ストーリーはたいして重要ではない

しかし、踊りを含めた人の動きだったり、登場人物の風体やビジュアルだったり、風景だったり、強く印象に残るシーンはいくつもある。
通常、短篇を集めた話だと印象は薄くなってしまいがちだが、この作品はそうはなっていない。

そして、時間が経ってから思い返すと、その印象に残っているシーンをまた見返したくなる、不思議な魅力を備えている

ただし、自分が睡眠不足気味で観たというのを差し引いても、眠くなる瞬間が多い、眠気を誘う作品でもある。
さらに、日本でスポンサーが見つからなかった一因とも思われる、反原発、反科学の主張。その大切さはわかるが、主張がストレート過ぎて、白けてしまう面もある。

スピルバーグの力でハリウッドからお金を集めて映画化にこぎつけた。そこまでする必要あるか?とも思わされるが、それが許されるのが黒澤明だ。

ストーリーが面白いわけではないので、低評価に留めたが、観る価値はある映画だとは思う。

「夢」のあらすじ

「日照り雨」-ある日照り雨の日、五歳位の私は母に見てはいけないと言われていた狐の嫁入りを見てしまう。家に帰ると母が恐い顔をして立っており、自ら始末を付けるように言われる。白鞘の短刀を渡された私は、虹の下の狐の家へ向かうのだった。

「桃畑」-雛祭りの日、少年時代の私は屋敷の中で不思議な少女(桃の精)を見る。逃げる少女を追って裏にある桃の段々畑跡に辿りつくと、大勢の男女がひな壇のように居並んでいた。彼らは桃の木の霊で、桃の木を切ってしまったことを責め立てる。しかし、桃の花を見られなくなったのが哀しいと泣きながらうったえる私に態度を和らげ、大勢の雛人形による舞を披露してくれる。後には桃の若木が一本だけ残り、花を咲かせていた。

「雪あらし」-大学生の私は三人の仲間とともに、雪山登山中に猛吹雪に遭遇。遭難しかけているさなか、次第に睡魔に襲われてくる。朦朧とした意識の中、雪女が現れ、深い眠りへと沈められそうになるが、危ういところで正気に返る。すると、吹雪は弱まり、視界が徐々に開けていく。

「トンネル」-陸軍中隊長だった私は、ひとりだけ戦争から生還してきた。人気のない山道を歩いてトンネルに差し掛かると、中から奇妙な犬が走り出てきて威嚇してくる。トンネルを抜けると、そのトンネルの中から戦死したはずの野口一等兵や、全滅したはずの第三小隊の隊列が現れる。自らの覚悟を語り、彼らに静かに眠ってくれと哀願し、部下達を見送る私だったが、またあの犬が現れ、吠えかかってくる。

「鴉」-美術館に飾られたゴッホの絵に魅せられていると、私はいつしか「アルルのはね橋」の絵の中に入っていた。私はゴッホを探し、絵の中でゴッホと出会う。「カラスのいる麦畑」の道を歩いていくゴッホの後姿を追っていくと、沢山の鴉が飛び立った。

「赤富士」-原子力発電所の6基の原子炉が爆発した。富士山が炎に包まれ、空は真っ赤に染まっている。逃げ惑う群衆。居合わせたスーツの男は原発に関わっており、懺悔の言葉を残すと海に身を投げた。私は必死で赤い霧を払いのけようと抵抗する。

「鬼哭」-霧が立ち込める溶岩荒野を歩いている私を、後ろから誰かがつけてくる。見ると、それは鬼だった。鬼たちは飢餓に悩まされており、鬼どうしで共食いをしている。私はそんな鬼たちが血の池の回りで哭いている様子を見る。何処へ行けばいいのか惑う私は、鬼に『オニニ、ナリタイノカ?』と問われ、ただ逃げ出すことしか出来ない。

「水車のある村」-静かな川が流れる自然豊かな水車の村。私は、そこで出会った老人から、近代技術を拒み自然を大切にしている村の暮らしの様子を聞く。そこに賑やかな一団がやってくる。聞くと、今日は葬儀があるが、それは、良い人生を最後まで送ったことの祝祭としてとり行われるという。老人は賑やかな葬列に鈴を持って加わる。私は名も知らぬ人の墓石に花を置いて、村を後にするのだった。

特に印象に残ったのは、狐の嫁入り、リアル雛人形と桃の花木、ゴッホの絵の中の風景(北海道の美瑛のあたり?)、風車村での葬列での歌と踊り、光があまり差さない雪山で遭難している雰囲気 etc.。

以下、いくつかのシーンを振り返る。

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狐の嫁入り。一斉に左を向く動きにゾクっとさせられる何かがある。踊っているのは舞踊集団菊の会の方々。

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子どもが隠れて見ているというシチュエーションが、より神秘さを高めている。

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桃の花びらが舞い散るなか、大勢の雛人形による舞。踊っているのは二十騎の会。
(なお余談だが、「桃畑」では主人公の姉役を鈴木美恵が演じていて懐かしい。もともとは鈴木美恵子という芸名で80年代のドラマ「うちの子にかぎって…」に出ていた方)

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「雪あらし」で遭難しかけているパーティ。こんな状況に陥った経験はないが、質感が伝わってくる。

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トンネルから現れた第三小隊。哀しくもあるシーンだが、静止画で見ると、彼らの白塗りの顔に笑えてしまう。

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ゴッホの「カラスのいる麦畑」。確かに惹き込まれる魅力を備えている。
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そしてこれが作中の「カラスのいる麦畑」シーン。
なお、ロケ地は、北海道網走郡大空町にある朝日ケ丘公園のあたりとのこと。

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赤富士。噴火したのかと思いきや、原発の爆発。リアルな富士山感はないが、迫力がある絵だ。

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葬列。踊りや歌が印象に残る。踊っているのは「狐の嫁入り」と同じく、舞踊集団菊の会の方々。

製作: 黒澤久雄、井上芳夫
提供: スティーヴン・スピルバーグ
監督: 黒澤明
脚本: 黒澤明
撮影: 斎藤孝雄、上田正治
演出補佐: 本多猪四郎
振付: 畑道代
美術: 村木与四郎、櫻木晶
助監督: 小泉堯史、米田興弘、酒井直人、杉野剛、早野清治、田中徹、ヴィットリオ・ダッレ・オーレ
音楽: 池辺晋一郎
衣装: ワダ・エミ
出演: 寺尾聰(「雪あらし」「トンネル」「鴉」「赤冨士」「鬼哭」「水車のある村」私)、倍賞美津子(「日照り雨」母)、原田美枝子(「雪あらし」雪女)、いかりや長介(「鬼哭」鬼)、マーティン・スコセッシ(「鴉」ゴッホ)、笠智衆(「水車のある村」老人)、伊崎充則(「桃畑」少年の私)、井川比佐志(「赤冨士」発電所の男)、根岸季衣 (「赤冨士」子供を抱えた女)、頭師佳孝(「トンネル」野口一等兵)、油井昌由樹(「雪あらし」パーティの仲間)、中野聡彦(「日照り雨」5才位の私)、舞踊集団菊の会(「日照り雨」狐の嫁入り、「水車のある村」村の踊る娘たち)、建みさと(「桃畑」桃の精) 、鈴木美恵(「桃畑」姉)、二十騎の会(「桃畑」雛人形達、「トンネル」第三小隊、「鬼哭」鬼達)、中嶋しゅう(「雪あらし」パーティの仲間)、木村栄(「雪あらし」パーティの仲間)、山下哲生(「トンネル」少尉)、カトリーヌ・カドゥ(「鴉」洗濯女)、木田三千雄(「水車のある村」村人)、常田富士男(「水車のある村」村人)、村人 – 七尾伶子(「水車のある村」村人)、本間文子(「水車のある村」村人)、東郷晴子(「水車のある村」村人)
編集: 黒澤明
製作会社: 黒澤プロダクション
配給: ワーナー・ブラザース
公開: 1990年5月25日(日)、1990年8月24日(米)
上映時間: 119分
製作費: $12,000,000
 
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