グラントリノ

イーストウッドの監督作品は、2013年10月25日に観た『ミリオンダラー・ベイビー』以来だから、相当ご無沙汰している。

それにしても、彼の監督作の人気は、国内外問わず総じて安定して高い。『マディソン郡の橋』以外は…笑

 
タイトルから受ける印象や、日本版のパッケージデザインの雰囲気から、てっきり、カーレースの映画だと思っていたら、まったく異なる内容だった。
(よくよく考えると、ゲームの「グランツーリスモ」の語感が頭の片隅にあったようだ……)

舞台はアメリカ中西部。ウォルト(イーストウッド)が住むエリアは、アジア人が増えている。隣に越してきたのは、モン族(作中でウォルトが「ハモン」と間違うのはスペルがHmongのため)の家族。
近所ではスパイダー(Doua Moua)率いる同じくモン族のギャングたちが幅をきかせている。

朝鮮戦争では戦地で兵士として闘い、その後フォードで働いていたイーストウッドは典型的な頑迷な老人。親の財産を狙う子どもたちとの関係はうまくいかず、孫たちもなつかない。

隣人にも不快感しか持っていないし、アジア人に対しても「イエロー」「イエロー」と差別的発言を繰り返す。

息子のミッチ(ブライアン・ヘイリー)がトヨタのランクルに乗っていることにも反感を示すなど、アジア人全般への蔑視が強いのかと、前半は思える。

しかし物語が進むにつれ、彼は他人との関係性を形作るツールとして、蔑視的発言を駆使しているだけで、悪気があるわけではないことがわかってくる。気心の知れたイタリア人の理髪師に対しても、隣人の娘スー(アーニー・ハー)に絡んでくる黒人のチンピラに対しても、腰抜けなスーのボーイフレンド(スコット・リーヴス。クリント・イーストウッドの実子)に対しても、同じように接する。

スーが、ウォルトと隣家が仲良くなるきっかけを作る。

しかし、ホームパーティに招かれるのはいいとしても、タオがマドンナ的な女の子ユア(Choua Kue)に声もかけられないことをウォルトがなじったり、ユアの事を何度も「ヤムヤム」と呼んだりというくだりは、やや不自然さがあった。おそらく、カットされた部分があったのではなかろうか。

また、ホームパーティでウォルトが子どもの頭をなでたことで家族から軽い反感を買ったりとか、目を合わせない家族らに違和感を感じたりとか、家に隣人らがやたらと花を持ってきたりとかの、アジア文化の描写も、過剰かつ今更な印象。

以下、ネタバレあり。

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ウォルトの紹介で、工事関係の職についたタオ。ある日、仕事帰りに、ギャングたちに仕事道具を壊され、頬にタバコで根性焼きをいれられる。それを見かねたウォルトが、ギャングの一人にヤキをいれて、タオに二度と触らぬよう脅しをかける。

しかしそれがアダとなって、スーは怪我を負わされたあげくレイプされ、家に対しても乱射される。

タオはイーストウッドに一緒に仇を討とうと持ちかけるが…

床屋に行き髪を切り、髭もそり、服もオーダーで新調し、数十年ぶりに教会へ行って懺悔をし、タオを自宅の地下へ閉じ込めたまま、一人丸腰でギャングの住処へ乗り込んで行く。

ギャングらと対峙している状況で、あえてタバコを口にし、ライターをとると宣言した上で、胸元から銃を抜くようにライターを引きぬくと、一斉に乱射され絶命。
近隣の人々が目撃しており、ギャングらは長期刑をくらう。

朝鮮戦争で敵兵を殺したことをずっと忘れられず苦しんできたウォルト。その思いをタオにさせてはいけない。そして、ギャングらをタオとスーから遠ざけなくてはならない。そのために彼がとった手段が上のとおりだったわけだ。

観終ってみて、少し時間を置いて冷静に考えると、この脚本のストーリーの納得感はある。
しかし、観ている最中は、何の罪もないスーが凌辱され、ウォルトも蜂の巣になって死んでしまい、絶望感とやるせなさに支配される

さらに、このエンディングを含め、見た目からも老いが隠せはしないウォルトが、吐血するぐらい身体が弱っているにもかかわらず、ギャングの一人を打ちのめしたりするなど、強くカッコよく描かれ過ぎている点で、やや白けてしまう自分がいた。

それでも、最後まで飽きさせない脚本・演出は見事。
エンターテインメントだなとは思う。

 
<<追記>>
象徴的な存在として登場するヴィンテージカーのフォードのグラン・トリノ。特典映像でもフィーチャーされているのに、作中はたいしてその格好良さを発揮していない。あの時代の車が好きな自分としては、そこも残念だった。

製作総指揮: ジャネット・カーン / ティム・ムーア / ブルース・バーマン
製作: クリント・イーストウッド / ロバート・ロレンツ / ビル・ガーバー
監督: クリント・イーストウッド
脚本: ニック・シェンク
原案: デイヴ・ヨハンソン / ニック・シェンク
撮影: トム・スターン
美術: ジェームズ・J・ムラカミ
音楽: カイル・イーストウッド / マイケル・スティーヴンス
衣装: デボラ・ホッパー
出演: クリント・イーストウッド(Walt Kowalski) / ビー・ヴァン(Thao) / アーニー・ハー(Sue) / クリストファー・カリー(Father Janovich) / ブライアン・ハウ(Steve Kowalski, another son) / ジェラルディン・ヒューズ(Karen Kowalski, daughter in law) / ドリーマ・ウォーカー(Ashley Kowalski, grand daughter) / ジョン・キャロル・リンチ(Barber Martin) / スコット・リーヴス(Trey, Sue’s boyfriend. AKA スコット・イーストウッド) / ブライアン・ヘイリー(Mitch Kowalski, son) / ウィリアム・ヒル(Tim Kennedy, president of construction company) / コリー・ハードリクト(Duke, black guy) / Doua Moua(Spider) / Choua Kue(Youa) / Brooke Chia Thao(Thao and Sue’s mom) / Chee Thao(Thao and Sue’s grandma)
配給: ワーナー・ブラザーズ
公開: 2008年12月12日(米)、2009年4月25日(日)
上映時間: 117分
 
【世間の評価】 ※2016.5.23時点
CinemaScape: 4.1/5.0 (234人)  
Yahoo! 映画: 4.43/5.00 (2,672人)
IMDb: 8.2/10 (552,632人)
 
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