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敬愛する園子温氏の監督作。

ヒミズとはモグラの一種のこと。
今回作品を観るまで知らなかった。

DVDのジャケットやチラシデザインにも使われている、泥だらけの顔の主人公(染谷将太)。
この写真から、私は幼くて従順かのような印象を受けていて、実際の作品内容とのギャップが大きく感じた。

2011年3月の東日本大震災後の東北の街が舞台。主人公の住田祐一(染谷将太)は中学生。
彼はいじめられているわけではないが、同級生や先生らの彼への接し方から『リリイ・シュシュのすべて』に通じる、中学校独特の違和感のある雰囲気をビンビン感じる。

住田、そして住田に好意を抱く茶沢(二階堂ふみ)ともに、自意識が著しく強い。
そして家庭環境が、そろって荒れている。
キャストは、他の園子温作品でおなじみの人ばかり。

観ている最中は、その世界に入りこんでしまうため、痛々しい空気感にこちらも巻き取られそうになる。軽い嫌悪感は何度も抱く。

しかし、観終ってから振り返り、ちょっと距離を置いて考えてみると、登場人物の真剣さがゆえの滑稽さや、園子温らしい演出を手放しで楽しむことができるようになる。
この監督は、そういう楽しみ方ができる監督だと思う。

話自体がうまくまとまってるのかどうか、判断はしづらい。
しかし、思い返すたびにザラザラしたものを感じるだけの、存在感を放つ作品だ。

そこはまさしく園子温ワールド。

「ヒミズ」のあらすじ

15歳の住田祐一は、積極的に普通を志向し、平凡な生活を送ることを夢見る中学生。同級生の茶沢景子はそんな住田に夢中で、猛アプローチをかけるが住田はそれを疎ましく思っている。住田の家は貸しボート屋で細々と生計を建てているが、その周辺には震災難民の夜野たち数人が野宿生活をおくっている。ある日、借金をつくって蒸発していた父親が戻ってきたことで、住田の運命は大きく狂い始める。

以下、ネタバレも含みつつ、印象に残ったシーンを振り返る。

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染谷翔太は初めて見たが、難しい役をうまく演じている。冷静なトーンからの、子どもっぽい激昂っぷり。
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「ボート屋なめんな、普通バンザイ!」。表情を含め、ここはサイコー。

二階堂ふみは『私の男』や『地獄でなぜ悪い』の妖艶な雰囲気とは打って変わって、中学生らしい、痛々しくも鼻につく役をうまく演じている。それがストーリーの展開とともに少しずつまともに変化し、最後は可愛らしく感じられるほど。
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前半は「きっついな~、この役」と思っていたが、女優魂なのか本能なのか、その剥き出しの部分や毒気にグサっとやられていく。本作の二階堂ふみが今のところ一番好きだ。
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住田に憧れ、住田語録を手書きで壁に貼っている茶沢。偏執的でナイス。

茶沢の住田への好意はあっさりと拒否される。あんな女、誰だって拒否する。

それでもめげない茶沢。反発し合う二人。
二人での575ゲームで、躊躇なく住田をひっぱたく茶沢の姿に虚をつかれる。
ここ、園さんが好きそうなシーン。

住田も、茶沢も、親に「死ね、死ね」と言われ続けるというあまりに特殊な環境。『冷たい熱帯魚』とは異なるが、精神的にかなりやばい話ではある。

最後の最後で、ようやく二人は心が通じる。そこでちょっと安心感が生まれる。
茶沢の印象に残るシーンの一つが、住田に対し、「君が死んだら、この先悲しくてやってられません」と伝えるところ。
セリフの力の入れ具合、年齢相応の弱さ具合がしっくり来た。

象徴的に何度も登場する、でんでん演じる金子が二層式洗濯機の中に隠した拳銃。
それを手に早朝、川の中に入って行く住田。
銃声が響き渡り、かけつけた茶沢はポケットの中に溜まった石を川に向かって投げつける。
この一連の流れは、詩的に描かれており情緒がある。
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ラスト、二人で泣きながら、叫びながら河川敷を走る二人。
わかりやすく青春ぽくって、これまでの特殊なシチュエーションや彼らの中の歪んた感情を一気に清算してくれるかのよう。

脇を固めるキャストも、個性豊か、癖アリアリ。

貸しボート屋の周りに住み着く、連中はところどころファンタジー。
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吹越さんのオレンジのセーターも、ジワジワ効いてくる。
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ねっとりとした神楽坂恵は健在。しかし、本作については存在価値が低く感じた。

自分の中では良い人役のイメージが強かった光石研が、住田の父親役。
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精神的に住田を攻撃していく。自分の中でのギャップが大きかったキャスティングで新鮮だった。

住田の母親は『愛のむきだし』でも強烈な役を演じていた渡辺真起子。茶沢の母親は『冷たい熱帯魚』で妖艶な役を演じていた黒沢あすか。どちらもいい味。

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でんでんと村上淳のヤクザコンビも、安定感ある。
でんでんが最後、良い人間らしさを出すのには、やや拍子抜けさせられたが。

最近ようやく観ることができた『GO』に続き、窪塚洋介が登場。今まで知っているタイプの窪塚じゃなかったのがちょっと面白かった。
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この表情、この目。好きだなあ、窪塚。
そして、その彼女役に吉高由里子がほんのちょっとだけ登場。
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私が好きな役者2人。吉高さんにはもっとガッツリ登場して欲しかった。

ウェイトレス役で鈴木杏がほんの一瞬登場。
バスで刺されるおばさんも見覚えのある顔。調べたら木野花という女優さんで今までも多くの作品で目にしていた。
その隣にいた妊婦は内田慈さん。見逃しません。

 
ところで、『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『地獄でなぜ悪い』の三作を観てもわかるが、シリアスとコメディが共存し、その境界線でせめぎ合っているような作品を園さんは志向しているようだ。
あまりにコメディに寄られると私の好みから外れてしまうのだが、本作でも渡辺哲さん演じる夜野が初めて茶沢に会うシーンで、落ちてる100円玉を拾おうとして、茶沢を突き飛ばし、茶沢は下着丸出しになりながら土手を転がっていくシーンがあった。どうしてもこういうの入れたいんだなあ、園さんは。

もう一つ、やや違和感があったのが、住田が顔を絵具でカラフルに塗りたくるところ。
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芸術色出しちゃった感じ?

 
最後に、バージョン違いのチラシ・DVDパッケージデザインを紹介。
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英題: Himizu
製作総指揮: 小竹里美
製作: 依田巽、吉岡富夫、梅川治男、山崎雅史
監督: 園子温
脚本: 園子温
原作: 古谷実
撮影: 谷川創平
美術: 松塚隆史
音楽: 原田智英
出演: 染谷将太(住田祐一)、二階堂ふみ(茶沢景子)、渡辺哲(夜野正造、元会社の社長)、吹越満(田村圭太)、神楽坂恵(田村圭子)、光石研(住田の父)、でんでん(金子、ヤクザ、ローン金子社長)、村上淳(谷村、ローン金子従業員)、渡辺真起子(住田の母)、黒沢あすか(茶沢の母)、諏訪太朗(まーくん)、堀部圭亮(茶沢の父)、川屋せっちん(藤本健吉)、窪塚洋介(テル彦、スリ)、吉高由里子(ミキ、テル彦の女)、モト冬樹(てつ、住田の母が家に連れ込む男)、西島隆弘(YOU、路上ミュージシャン)、鈴木杏(ウエイトレス)、新井浩文(シュウ、住田に絡んで刺される不良)、宮台真司(TVのコメンテーター)、手塚とおる(住田と話して共感し、無差別殺人を犯す)、内田慈(バスの妊婦)、木野花(バスの妊婦の義母)、坂ノ上朝美(ヤンキー、ファミレスの客)、裴ジョンミョン、深水元基、永岡佑
編集: 伊藤潤一
配給: ギャガ
公開: 2011年9月6日(伊VIFF)、2012年1月14日(日)
上映時間: 130分
興行収入: 2億円
キャッチコピー: 「生きろ」と、君が言った。
 
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