lunacy

鬼才と呼ばれるチェコの監督、ヤン・シュワンクマイエル。

ずっとその作品を観たいと思っていたが、TSUTAYAには置いてある作品数が少なかったりして、機会を逸していた。一念発起して、本作をレンタル。

変態的だということはうっすらと知ってはいたが、予想に違わぬ内容だった。

しかし、逆に言うと予想から大きく外れる部分が少なく、驚きも少なかった。

映画冒頭に監督自身が登場して語ることのひとつに、精神病院における管理者達の態度には二種類、自由を与えるパターンと、徹底的に暴力で締め付けるパターンがあると。

その精神病院が、この映画の舞台。

患者にとっては前者の接し方がいいはずだが、管理している側のリーダーがなかなかのクレイジーな侯爵(ジャン・トリスカ)で、自身もセラピーを受けながらも、快楽の享受に邁進。院長(ヤロスラフ・ドゥシェク)と一緒にやりたい放題。何よりも侯爵の高笑いの仕方が気色悪く、脳裏に焼きついて離れない。

宗教を否定し、神を冒涜し、セックスし放題。
ただし、宗教に関する侯爵の主張(宗教や神は弱い人間が作り上げたもの。神は人間を助けたりしない etc…)も、筋は通っている気はする。

マルキ・ド・サドのエッセンスはこのあたりに入ってるのだろうか。

主人公ジャン・ベルロ(パヴェル・リシュカ)は、恋心を抱く旧院長の娘シャルロット(アンナ・ガイスレロヴァー)に唆され、侯爵と現院長が外出している隙に、地下に捕らえられている、もともとの院長(マルチン・フバ)をはじめとする監視人たちを解放する。

体罰で体を弱くし、精神と身体のバランスをとるという理論を実践する、これまたクレイジーな解放された旧院長。捕えた侯爵や現院長にも厳しい治療を課す。

そして、定期的に悪夢にうなされ、部屋をめちゃくちゃに破壊するジャン・ベルロにも治療が施されることになるところで、ジエンド。

場面転換のところでは、牛の舌や、目や、肉が、ぐちゃぐちゃしたなんともいえない質感の効果音とともに、コマ送りで動き、作品にアクセントを加えている。何を表そうとしているのかは、定かではないが。

病院の中にはいたるところに鶏がいたり、車が普通に走っている時代設定なのに侯爵は馬車で移動していたり、よくわからないディテイルが少なくない。

侯爵を含めたメンバーでアンチ宗教的な儀式が行われている空間で、チョコレートケーキなのか何なのかはわからないが、口の周りに食べたものが付いているのも気にせずむしゃむしゃ食べる(女性は片乳を出したまま)シーン。また、患者たちが(ドラクロワの絵の構図にならって並ぶリハーサルの合間だったかな?)食事をするシーン、など何かを食べるシーンも象徴的に使われている。

宗教、食、セックス。
肉体と精神。

エドガー・アラン・ポーへのオマージュが散りばめられているらしいが、それがどの部分なのかはまったくわからなかった。

通常の映画において、夢の中なのか現実なのかどっちか区別がしづらい映像やシーンが差し込まれると、私は気持ち悪く感じる性質なのだが、この映画では全編にわたって現実感が希薄で、まったく気にならなかった。

ホラーならではの落胆を味わっていただこうと、監督は冒頭で言っていたが、自分は味わえたのだろうか。

ホラーを観た気はしない。ただ、モヤっとしたものが、頭の中に残る。

lunacy_2別バージョンのDVDジャケット。エグい。
原題は「Sílení」。チェコ語で”mad”の意。
なお、英題の「Lunacy」も”mad”と同じ意味。

日本版 るなしー日本版のジャケットは、日本人好みの落ち着いたテイスト。
「あなたに本当の自由を見る覚悟はあるだろうか」

 
<<追記>>
本作はヤン・シュヴァンクマイエルの監督作の中では、わかりやすい内容だという。そう言われれば、内容がわからなくて眠くなるといった作品ではなかったことは確かだ。

期せずして、ヤン・シュワンクマイエルの狂気を知る第一歩の入門編としては、悪くない選択だったのかもしれない。

製作:ヤロミール・カリスタ
監督・脚本:ヤン・シュヴァンクマイエル(Jan Svankmajer)
撮影:ユライ・ガルヴァーネク
美術:エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー / ヤン・シュヴァンクマイエル
衣装:ヴェロニカ・フルバー / エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー
出演:パヴェル・リシュカ(Pavel Liska) / アンナ・ガイスレロヴァー(Anna Geislerová) / ヤン・トジースカ(ジャン・トリスカ/Jan Tríska) / ヤロスラフ・ドゥシェク(Jaroslav Dusek) / マルチン・フバ(Martin Huba)
 
【世間の評価】 ※2016.2.2時点
CinemaScape: 3.8/5.0 (13人)  
Yahoo! 映画: 3.23/5.00 (30人)
IMDb: 7.3/10 (2,669人)
 
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