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ずっと、この映画のタイトルを『世界にひとつのプレイバック』だと思っていた。
過去に戻る話なのかな、と。
とんだ勘違いだった。

そもそも原題の”Silver Linings Playbook”とはどういう意味なのかを最初に確認しておこう。

劇中のセリフとしても何度か登場し、原題にも入っている”silver lining”とは”希望の兆し”のような意味。
“playbook”は、劇中にアメフトが象徴的に登場することにも関連しているが、アメフト等のスポーツの戦術書、戦術ノートのようなもの。
つまり、”Silver Linings Playbook”とは、”主人公やその家族や友人らも含めての、希望の兆しをつかむための戦術書”のような意味なのだ。

なかなか日本語で短く伝えることが難しく、邦題をつけるのに苦労したことが伺えるが、「プレイブック」という単語の意味などほとんどの人が知らないんだから、もうちょっと考えたほうが良かったのでは、という気がしてならない。

 
さて。では肝心の内容のお話。

主人公を務める、パット(ブラッドリー・クーパー)、ティファニー(ジェニファー・ローレンス)ともに精神的に不安定で、置かれている状況は決して良くはない。
そんな中で、時にぶつかりながら、原題のとおり希望の兆しを求めていく二人。

痛々しく、目をそむけたくなるシーンもある。

が、主演の二人の好演に引っ張られ、幸運も味方し、ハッピーエンドへと帰結する流れは、自然に感じられる。

決してストーリー展開に大きな驚きがある作品ではないが、二人や家族、友人らの関係性や心理描写には特異なものがある。

以下、ネタバレを含み、印象に残ったシーンを振り返る。

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前半、前妻のニッキと復縁できると信じるパットには痛々しさがつきまとう。

自分たちの結婚式でもかけていた曲で、それをかけながら元妻が浮気相手と自宅でシャワーを浴びていたのが、”My Cherie Amour”。
その曲が、病院でかかっていたことでパニック状態になるパット。

また、ヘミングウェイの「武器よさらば」を読んで内容に激昂してガラスに本を投げて割ったり、結婚式のビデオが見つからずわめきたてたりと、精神的な安定にはほど遠い状態。
しかも決まって深夜に不安定になる。それでも両親は文句を言いながらも我慢してパットにつきあっている。
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結婚式のビデオを探している最中のパット。胸を締め付けられるような表情をする。
ブラッドリー・クーパーは、『ハングオーバー』シリーズの軽い教師役(おぉ!ともに教師役だ)とはだいぶ違う印象。良い役者だ。

一方、警官だった旦那と死別してから不安定になり、人の温かみが欲しくてセックス中毒気味のティファニー。

どん底の二人。出会った瞬間から、少なくともティファニーはパットに運命めいたものを感じている。
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走る二人。主治医だかも言っていたが、走るとスッキリするから精神的にもいいはずだ。パットがごみ袋を着ている意図は結局明らかにされぬまま(?)
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激しい表情や口調での演技が多々あったジェニファー・ローレンス。頑張っていた。
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パットがティファニーの家を訪ねるが、親に追い返されるシーン。自分の服装の趣味もあるかもしれないが、家の中で隠れているティファニーの姿は、この映画の中で一番魅力的に映った。

ティファニーがパットに好意をいだいていることは誰の目にも明らかな展開。
あとは、最後にどうやって二人をくっつけるか。

実はティファニーが装って書いている、ニッキからパットへの返信の手紙と、その後のティファニーのセリフともに”if it’s me reading the signs”という表現が使われていて、この手紙はティファニーが書いたものと気づくパット。
「わたしだったらサインを見落とさないが」のような意味だろう。

なお、ティファニーが書いた手紙の全文は以下のとおり。

Dear Pat

It was very emotional for me to get your letter, as I’m sure you can imagine, but I’m glad you took the risk of discreetly getting it to me through Tiffany. This gives us a chance to communicate while I keep the restraining order until I feel safe. I must admit you sound terrific and I’m happy that you are feeling so positive and becoming a more loving and caring man, which I always knew you were.

I was moved to read about ‘Excelsior’ and your belief in happy endings. I am also moved by your act of love to read the books I have taught at the high school. I’m sorry you find them so negative, but I disagree. I think they are great works of art that reflect how hard life can be and they can also help kids prepare themselves for the hardness of life. In spite of all these positive developments, Pat, I have to say if it’s me reading the signs, I need to see something to prove you are ready to resume our marriage. Otherwise I find myself thinking that we might both be better off moving on with our lives separately.

Please don’t react quickly to this, but take time to think about it. I’m glad you’re doing so well.

Love, Nikki

クライマックスには、父親(ロバート・デ・ニーロ)のアメフトのゲームでの賭けと、ダンスの大会の成績が関係してくる。
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ダンス中の二人。まるでラブシーンのよう。
ダンス会場のバーでウォッカ2杯をあおり、酔っぱらった風のティファニーが、何の問題もなくダンスを踊れてしまうのにはちょっと拍子抜け。
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ダンスで審査員の平均点が5点を超えて、大喜びの二人。ティファニーの表情が特にナイス。自分にとっては初見の女優さんながら、オスカーとれて良かったね!と言いたくなる。

ダンスが終わって、ニッキと久しぶりに再会し、親しそうに話すパットを見たティファニーはたまらず会場の外に飛び出す。それを追うパット…
ここは手堅過ぎる印象。もうちょっと盛り上げてほしかった。

 
パットは、家庭環境も変わっている。

パットが病んでいるのはわかるが、それと同程度に大変なのが、デニーロ演じる父親。
書斎に家族が入るのを極端に嫌がったり、リモコンを動かされるが嫌な神経質さだったり、勝ちをよぶJUJU(御守り)として息子をしきりに一緒にTVで贔屓のアメフトチーム(フィラデルフィア・イーグルス)の試合を見せようとしたりと、
彼もなかなかなキャラクター。
家の中に飾ってある写真も、弁護士の兄の写真は普通に飾ってあるのに、パットの写真は壁から外され下に置いてあるが、それも父親の仕業だと想像される。

兄は兄で嫌味な性格で歪んでいる。

この家庭環境が、現在のパットを作っているということを、制作側は伝えたいのがよくわかる。
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それにしても、デニーロとジャッキー・ウィーヴァーが両親というのは意外なキャスティングだ。

また、友人の中でも、ロニー(ジョン・オーティス)は、仕事や家族でかなり参ってそうで、これはこれで心配になった。

みんな生きていくのに大変なんだなあと、当たり前のことをあらためて思わされる。

脇役の中では、病院で知り合った友という設定ではあるが、クリス・タッカーの天性の明るさは救いだった。
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クリス・タッカーの良さが存分に発揮されていたとは言い難い役ではあったが、それでも魅力を放っていた。

 
ところどころ狙い過ぎな感もあったが、音楽が全般的に良かったのも印象に残る。
特に、Dave Brubeckの”Unsquare Dance”に痺れた。
音楽監督は大御所のダニー・エルフマン。よく見たら先日観たばかりの『ミッドナイトラン』も彼が音楽監督だった。

英語の表現の部分でもいくつか気になる内容があった。
一つは、ラストの賭けの方式であるパーレイ(parlay)。
これは、組み合わせた賭け全てに勝つ必要があり、1つでも負ければ全ての賭けで負けとなる方式のこと。

もう一つは、ニューヨーク州の標語にもなっており、パットのモットーでもあるエクセルシオール(Excelsior)。
「より高く!」という意味。

 
最後にバージョン違いのチラシデザインを紹介。
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日本語版。パットが着ているごみ袋が、ぱっと見、鎧のようなベストのような恰好の良い服装に見え、なんだか麗しい恋愛映画を想起させる気がする。

原題: Silver Linings Playbook
製作総指揮: ブラッドリー・クーパー、ジョージ・パーラ、ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン
製作: ブルース・コーエン、ドナ・ジグリオッティ、ジョナサン・ゴードン
監督: デヴィッド・O・ラッセル
脚本: デヴィッド・O・ラッセル
原作: マシュー・クイック
撮影: マサノブ・タカヤナギ
美術: ジュディ・ベッカー
音楽: ダニー・エルフマン
衣装: マーク・ブリッジズ
出演: ブラッドリー・クーパー(パットリック(パット)・ソリターノ・ジュニア)、ジェニファー・ローレンス(ティファニー・マクスウェル)、ロバート・デ・ニーロ(パトリツィオ・ソリターノ・シニア、父)、ジャッキー・ウィーヴァー(ドロレス・ソリターノ、母)、クリス・タッカー(ダニー・マクダニエルズ)、ジョン・オーティス(ロニー、友)、ジュリア・スタイルズ(ヴェロニカ、ロニーの妻、ティファニーの姉)、アヌバム・カー(クリフ・パテル医師、主治医)、ブレア・ビー(ニッキ、元妻)、シェイ・ウィガム(ジェイク・ソリターノ、兄、弁護士)、ダッシュ・ミホク(キーオ巡査)、ポール・ハーマン(ランディ、父の博打仲間)、パトリック・マクデード(ティファニーの父)
編集: ジェイ・キャシディ、クリスピン・ストラザーズ
製作会社: ワインスタイン・カンパニー、Mirage Enterprises
配給: ワインスタイン・カンパニー(米)、ギャガ(日)
公開: 2012年9月8日(加,TIFF)、2012年11月21日(米)、2013年2月22日(日)
上映時間: 122分
製作費: $21,000,000
興行収入: $159,357,638(内、日本2億6400万円)
 
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