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知人女性のお勧め。
河瀬直美監督作を観るのは、『萌の朱雀』以来かもしれない。

BGMが少なく、過剰な演技もない。

話は静かに進むが、登場人物それぞれは、内に秘めたストーリーを持っている。

過去の犯罪歴から借金を負い、甘いものが好きでもないのにどら焼き屋の店主を務める千太郎(永瀬正敏)。

千太郎の、言葉少なであり、職人肌のように見えるが実はそこまででもなく、人に対しては優しい視点を持っている、人間臭いキャラクターの描きかたは好感が持てる。自分が置かれている立場の弱さもあってか、嫌なことがあると酒に逃げてしまうところに弱さもあり。

(おそらく)片親の環境で育ち、その母親(水野美紀)もフラフラしており、経済的に高校への進学も危うく、好きな小鳥さえアパートで飼うのが禁止されている中で、日々を過ごす中学生のワカナ(内田伽羅)。
この子には透明感がある。制服を着ている時のお下げ髪スタイルは、やや野暮ったいが、私服時は可愛らしい。話し方に、優しさとあどけなさがうかがえるキャラクター。

そして、本作の主演である、元ハンセン病患者である徳江(樹木希林)。
七十代半ばという設定は実年齢より上だが、さすが見事に演じきっていた。最初はヨボヨボしていたが、バイトとして雇われ、あん作りが始まると一気に生き生きしてくる。

ハンセン病の影響で指がおかしいという設定だが、、それより、手の甲の親指のそばにあるイボのようなものが気になってしまった。

彼女の表情、語りかけ方(特に店長のに千太郎対して)が本当に自然で、スッと入ってくる。
手紙や、録音されたテープを使う手法は、より彼女の良さを際立たせていた。映像作品として、禁じ手ではあるのだろうが。

また、個人的な話だが、市原悦子が演じる、同じく元ハンセン病患者である桂子の風貌は、私の母親を思い出させた。

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この作品では、ハンセン病の存在が、大きな役割を担っている。
私自身、その病名は知っていても、その症状、社会的な扱われかた、現在の状況についてはほとんど知らなかった。
本作に接して、観客のハンセン病に対する理解が進むことは、この映画の意義でもあるだろう。

ドラ焼き店の近くに咲き乱れる桜並木。空に浮かぶ白昼の月。徳江を含む元ハンセン病患者が多く住むエリアの近くにある緑。
自然を適度に感じさせる映像が心地よい。

静かな空間、演出の中で、登場人物の中に少しずつ変化が現われ、エンディングを迎える。
ハンセン病の療養所(?)の食堂で、永瀬、樹木ともに涙するシーンは、静かな感動を感じ、グっと来た
『萌の朱雀』にも通じる、河瀬監督の真骨頂がここに現われている気がした。

ただし、ストーリーの展開が予想できてしまうタイプの映画であるため、驚きが少なかったことは否めない。

 
<<追記>>
内田伽羅が本木雅弘の実子、すなわち樹木希林の実の孫ということは知らなかった。それを知って、二人のやりとりを思い返すと、また味わい深いものがある。

また、作品の内容とは関係はないが、エンドロールで、この作品の原作がドリアン助川であることを知り、その「ドリアン助川」という字面の唐突感に虚を突かれたことを追記しておこう。

製作:澤田正道
監督・脚本:河瀬直美
原作:ドリアン助川
撮影:穐山茂樹
美術:部谷京子
音楽:デヴィッド・ハジャディ
衣装:小林身和子
出演:樹木希林 / 永瀬正敏 / 市原悦子 / 内田伽羅 / 浅田美代子 / 水野美紀 / 太賀 / 竹内海羽

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