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沖田修一監督作品を観るのは、『キツツキと雨』、『横道世之介』に次いで3作目だが、いずれも今年に入ってから初めて観ている。
自分にとって、なんか最近縁がある監督なのだ。

3作品に共通するのは、善悪を決めるような内容ではなく、緩く見れるという点。
そして、3作ともに出演している役者が、高良健吾。3作とも役柄はだいぶ異なる。監督と彼の結びつきの強さが伺える。

堺雅人が主演という位置づけではあるが、個性豊かな8名それぞれが、それぞれの個性をそれなりに発揮しながら、南極での日常が過ぎていく。

「南極料理人」のあらすじ

日本からはるか14,000kmの彼方、南極大陸沿岸部の昭和基地からさらに1,000kmも内陸部へ入った場所に位置する「ドームふじ基地」。標高3,810m、ペンギンやアザラシといった動物はおろか、ウイルスさえいない氷点下54℃以下の壮絶な自然環境へ、1997年第38次南極観測隊の一員として海上保安庁の西村淳は派遣された。妻と8歳の娘と赤ん坊の息子を置いての単身赴任で、その任務は総勢8名の男たちの食事を用意すること。トイレは丸見えでろくなプライバシーもなく、日本へ電話するのにも1分740円もかかり、隊員らのフラストレーションは大きい。西村は特殊な環境の中、限られた食材で隊員たちのストレスを緩和すると同時に、飽きさせないメニューを作るために奮闘する。

この監督らしい、ゆるーく観れる、ほんわかとしたストーリー。

西村(堺雅人)の家族との関係性だったり、問題児的な”主任”(古舘寛治)の存在だったり、この人たちの関係性はどうなってしまうんだろうというちょっとしたドキドキ感はある。
が、観終わってみて、あらためて各シーンを思い返すと心がほのぼのする。
で、また観返したくなる。そんな映画。

以下、ネタバレも含みつつ、印象に残ったシーンを振り返る。

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この作品の重要な要素の一つは、西村が料理人ということもあり、まず料理だ。

美味しそうな料理がいくつも登場する。
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刑務所の中』でもあったが、料理を上から撮られるととりあえずグッと来る。
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定番のおにぎり。3人とも表情が良い。
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美味そうにトン汁を飲む兄やん。高良健吾はお茶漬けのCMとか良さそうだ。

注目の伊勢海老のエビフライシーン。
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食卓に並んだのを眺め、
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頭を皿の外に置いて、実食!
シンプルながらも、暖かい気持ちになれる笑いがちゃんと用意されている。

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朝食からカニ。せっせと中身をほじり出す西村。

食がらみでいうと、大好物のラーメンが底をついたことを知った時の、タイチョー(きたろう)のリアクションも良かった。
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きたろうさん、生き生きと演技している様が伝わってくる。

 
2つ目の、この作品の重要な要素は、時間の流れ。

時間が経過することで、メンバーの心持ちも変化し、関係性も少しずつ変わり、髪や髭も伸びる。
上のカニの身をほじっている西村の髪の長さを見れば、後半の彼だということがすぐにわかる。
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何回か登場する体操のシーンも、最初は、「ふーん、こういうことするんだね」ぐらいの薄い印象だったが、何度か出てくるうちに、皆の体操がスムーズにキレッキレになっていく変化が感じられ、一体感も出てきて面白くなってくる。

また、作品の時間の配分を見ると、前半は長く、後半は短く撮られているはず。
これは実際に南極で時間を過ごしている彼らの体感も同じだからだろう。

 
3つ目の、重要な要素は、日本にいる家族や恋人との関係性。

その中でも、西村の、家族との関係性はしっかりとフィーチャーされている。
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旦那に厳しい妻(西田尚美)と、娘(小野花梨)。特に娘の嫌な感じの出し方が秀逸だった。楽しみな子役だ。

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もとさん(生瀬勝久)の誕生日、家族への電話を皆で聞いているシーン。男子校に通う男子高校生を見ているようでほっこりする。一方で、電話口では娘が、「お母さんは電話に出たくないと言っている」といい、空気が固まる。
時間経過による隊員内の関係性の変化と、家族との関係性の危うさがいずれも感じられるシーンだ。

 
大事にしていた娘の下の歯が氷穴の底へ落ちてしまい、部屋にひきこもる西村。
仕方がないので、他の隊員で力を合わせて食事を作ることに。
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その唐揚げを食べてみると、日本の家で食べたものと同じくベチャっとしており、懐かしくて涙を流す西村。

このシーンは、”料理”、”時間の経過”、”家族”がともに感じられる集大成のようなシーン。

 
役者陣はみなさん魅力的。

堺雅人は、相変わらず笑い方に強い特徴があり、本作を観ながらも、ドラマ『半沢直樹』や『鍵泥棒のメソッド』での彼を思い出してしまうのは止められなかった。なお、主人公の西村だけ、唯一あだ名がなく、”西村くん”と呼ばれているのは面白い。

もっとも惹かれたのは、豊原さん。ゆるい役柄がハマっていた。

高良健吾は強過ぎず、弱過ぎず、彼らしさをうまくだしていた。唯一違和感を感じたのが、ラスト、KDDのオペレーターと初めて会うシーンでの彼の雰囲気と彼の反応。気にし過ぎかもしれないが。

ラスト近くで、「新聞読みながら新聞読むのやめなさい」というきたろうのセリフ。あれは絶対セリフ間違いだろう。そのまま使うところは嫌いじゃないが。

古舘さん、黒田さんなど、小劇場出身の役者さんが出ていたのは嬉しかったし、安心して観れた。いつもながら、勝手に遠い親戚ぐらいの気持ちで応援しながら観てしまう。
兄やんの恋人役は電話だけの登場だったが、それでも内田さんだとわかってしまったのも、小劇場出身ゆえ。彼女は声に特徴があるというのももちろんあるが。

 
本作は西村目線の作品だが、他の登場人物目線のストーリーも観てみたい。
それぞれの人生も、この調査隊に参加したことで多かれ少なかれ変わっていそうだし。

最後に、この撮影を北海道の網走でしていることには驚いた。北海道スゲー!

英題: The Chef of South Polar
製作: 西ヶ谷寿一
監督: 沖田修一
脚本: 沖田修一
原作: 西村淳
撮影: 芦沢明子
美術: 安宅紀史
音楽: 阿部義晴
主題歌: ユニコーン「サラウンド」
衣装: 小林身和子
特撮: 小田一生
出演: 堺雅人(西村淳、海上保安庁から派遣された調理担当)、生瀬勝久(本さん、雪氷学者)、きたろう(タイチョー、気象学者)、高良健吾(兄やん、雪氷サポート、大学院生)、豊原功補(ドクター、北海道私立病院から派遣)、古舘寛治(主任、車両担当)、黒田大輔(盆、通信担当)、小浜正寛(平さん、大気学者)、西田尚美(西村の妻)、小野花梨(西村の娘)、小出早織(清水さん、KDDインマルサットオペレーター)、宇梶剛士(海上保安庁、西村の同僚)、嶋田久作(海上保安庁、西村の上司)、内田慈(兄やんの彼女の声)
編集: 佐藤崇
配給: 東京テアトル
公開: 2009年8月8日(日)
上映時間: 125分
キャッチコピー: 「おいしいごはん、できました。」「氷点下54℃、家族が待つ日本までの距離14,000km。究極の単身赴任。」
 
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