ヘイトフル8

あらためて考えてみると、タランティーノ絡みの映画を映画館で観るのは、意外や意外、かなり久しぶり。おそらく「トゥルー・ロマンス」や「ナチュラル・ボーン・キラーズ」以来かもしれない。久しぶりにもほどがある…

学生時代に「パルプ・フィクション」に打ちのめされて以来、タランティーノ大好き人間ではあるが、その後の彼の方向性と自分の好みがずれつつあるのは感じてきた。

とはいえ、つまらなかろうと、何としてでもこの映画は映画館で観ておきたかった。

『スターウォーズ フォースの覚醒』 もここで観たので、馴染みがある気がしている新宿ピカデリー。週中の夜の最後の回だから自然なのかもしれないが、客はまばら。タランティーノの人気もだいぶ落ち着いてしまっているのだろうか。この映画もそれほどは話題にはなっていない。

何にせよ、客が少ないことで、落ち着いて観れたのは良かった。
では、本題に入る。
 
『ジャンゴ』に通じるやりたい放題さは、本作でも全く薄れることはなかった。

きっと血の雨が降るなということはわかっていて、それが始まるまでの緊張感の中、ストーリーは展開する。タランティーノの映画を観に来る時点で、みんな銃撃シーンは予想している。それを利用してか、あえてゆっくりとしたペースで話は進む(もちろん暴力シーンはあるが)。なかなか人が死ぬシーンはやってこない。この引っ張り方、緊張感の持たせ方はさすがだなと唸らされた。

前半はサミュエルL・ジャクソン演じるマーキス・ウォーレン(誰もマーキスなどとは呼ばないが)と、カート・ラッセル演じるジョン・ルースがグイグイ引っ張ってゆく。

後半に入り、舞台がミニーの店に移ってからも、基本的にはこの二人が強い。そこに、新しくレッド・ロックの保安官に赴任するクリス(ウォルトン・ゴギンズ)がちょっかいを出すなどして関わってきて、主要メンバー中唯一の女性であるデイジー(ジェニファー・ジェイソン・リー)が存在感を示してくる。

再三登場する北軍南軍の話は、アメリカの歴史を軽く知っていたほうが理解は進む。黒人の扱いもそうだ。自分の場合、先日観たマカロニウエスタンの『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』 がイメージ作りの役に立った。そういえばあの映画はタランティーノの大のお気に入りだし、音楽も本作と同じくエンニオ・モリコーネだった。

以下、ネタバレあり。

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ウォーレンは、この時代なら当然なのかもしれないが、差別のされ倒し。上でも書いたが、彼が名前で誰かに呼ばれることはほぼない。「黒人が安心できるのは白人が丸腰の時だけだ。だから嘘のリンカーンからの手紙まで持っているんだ」とジョン・ルースに告げるシーンは、一見この映画では弱い立場にはいなそうに見える彼の、隠された弱さが伺えて興味深かった。

ジェニファー・ジェイソン・リーは、久しぶりに観たが、ある時は可愛らしく見えたり、ある時はふてぶてしく見えたり、賞金をかけられているデイジー・ドメルグという役を自在に操っている印象。左目には常に黒い大きい痣があり、ジョンにはボコボコに殴られ、さらにはジョンに血を吐きかけられ、弟のジョディ(チャニング・テイタム)の吹っ飛ばされた頭部の血を顔中に浴び、最後には吊るされ、しかもその苦しんでいる姿をマーキスとクリスの二人(プラスもちろん我々観客も)にじっくり見られるという、なかなか激しい役だった。
(彼女、実年齢は50歳を超えている。とてもそうは見えないエネルギッシュさ。)

しかも吊るされている彼女の手からは、手錠でつながれた切り落とされたジョンの手がぶら下がっているという。このあたりの過剰な演出を、タランティーノが嬉々としてやっている姿をが目に浮かぶ。
ヘイトフルエイト
ジョンがみんなの前で、おれは明日こいつを絞首台に送ると宣言するシーン。この時のジェニファー・ジェイソン・リーの動きがツボだった。

 
『キルビル』のあたりからそうだが、過剰にやらないと気が済まない、タランティーノイズムがぷんぷんと漂う作品だった。

ウォーレンが、命乞いするジェネラルの息子(クレイグ・スターク、彼は凄い役を引き受けたものだ)を雪山で素っ裸にして2km歩かせたうえ、口で奉仕させる回想シーンも同じ。ゾッとする怖さというよりは、マンガに登場する狂人を見ているかの印象を受けてしまう。

保安官クリスの喋る英語のゆっくりさ、それでいて押しの強さは印象深かった。西部劇を何本か見たせいで、その時代の喋り方が少しはわかったような気がした。

ティム・ロスやマイケル・マドセンも主要の4人に比べると影は薄いが、存在感はきっちりと出しており、久しぶりに観れて、嬉しかった。

ラスト、クリスがウォーレンからリンカーンからの偽の手紙を見せてもらい、手紙を音読する。「メアリー・トッドが呼びに来た、そろそろベッドに行く時間だ」のくだりを読み、最後の最後で「メアリー・トッド、ナイスタッチだ」とウォーレンに言い、ウォーレンは「Thanks」と答え、二人で静かに笑う。

この偽の手紙に、ジョン・ルースだけでなく、バカにしていた保安官クリスも結局惹きつけられている。不思議な役割を担っているのだ。

 
前半部の緊張感を持った引っ張り方、中盤の怒涛の展開、そしてラストの手紙のくだりでの締め。
3時間弱の長尺でありながら最後まで飽きることなく魅せきってくれた。

ただ、過剰な演出にはやや辟易とするところもあり、そこが自分にとっては『ジャンゴ』と比べても、やや評価が下がるポイントとなった。

製作総指揮: ボブ・ワインスタイン / ハーヴェイ・ワインスタイン / ジョージア・カカンデス
製作: リチャード・N・グラッドスタイン / ステイシー・シェア / シャノン・マッキントッシュ
監督: クエンティン・タランティーノ
脚本: クエンティン・タランティーノ
撮影: ロバート・リチャードソン
美術: 種田陽平
音楽: エンニオ・モリコーネ
衣装: コートニー・ホフマン
出演: サミュエル・L・ジャクソン(Major Marquis Warren) / カート・ラッセル(John Ruth, The Hangman) / ジェニファー・ジェイソン・リー(Daisy Domergue) / ウォルトン・ゴギンズ(Sheriff Chris Mannix) / デミアン・ビチル(Bob) / ティム・ロス(Oswaldo Mobray) / マイケル・マドセン(Joe Gage) / ブルース・ダーン(General Sandy Smithers) / ジェームズ・パークス(O.B. Jackson) / クレイグ・スターク(Chester Charles Smithers) / ゾーイ・ベル(Six-Horse Judy) / リー・ホースリー(Ed, coachman of Judy) / チャニング・テイタム(Jordan “Jody” Domergue) / ダナ・グリア(Minnie Mink) / ジーン・ジョーンズ(Sweet Dave) / キース・ジェファーソン(Charly, black guy) / べリンダ・オウィノ(Gemma, black lady) / クエンティン・タランティーノ(as the narrator, uncredited)
製作会社: Double Feature Films / FilmColony
配給: The Weinstein Company(米)、ギャガ(日)
公開: 2015年12月25日(米)、2016年2月27日(日)
上映時間: 167分
 
【世間の評価】 ※2016.4.20時点
CinemaScape: 4.0/5.0 (27人)  
Yahoo! 映画: 3.62/5.00 (912人)
IMDb: 7.9/10 (221,849人)
 
@新宿ピカデリー