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何よりもこれが事実に基づいているストーリーというところに驚愕した。これこそがこの映画が成功した最大のポイントだろう。

構成、演出も良く、冒頭からグイグイと話に惹き込まれる。

日本版のDVDパッケージデザインがチューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)のバストショット(ページ下に写真あり)なのだが、それがややダサいことで観ることを無意識に躊躇している人がいたらそれは勿体ない。なかなかな良作。

一ついうのであれば、大きいことをなしとげる人の孤独を強く感じる作品だ。

「イミテーション・ゲーム」のあらすじ

第二次世界大戦下の1939年イギリス。連合軍にとって、ドイツ軍が有する史上最強の暗号機“エニグマ”の解読は最重要課題だったが、解読は事実上不可能といわれていた。そんな中、MI6のもとにチェスのチャンピオンをはじめ様々な分野の精鋭が集められ、暗号解読チームが組織される。その中に天才数学者アラン・チューリングの姿もあった。同僚を見下すチューリングは共同作業に加わろうとせず、勝手に奇妙な暗号解読装置を作り始めてしまう。次第に孤立を深めていくチューリングだったが、クロスワードパズルの天才ジョーンがチームに加わると、彼女がチューリングの良き理解者となり、周囲との溝を埋めていく。いつしか一丸となった解読チームは、エニグマ解読まであと一歩のところまで迫っていく…

以下、ネタバレも含みつつ、印象に残ったシーンを振り返る。

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冒頭、ロバート・ノック刑事からチューリングが取り調べを受けるところから話は始まる。
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「主導権は私にある」、「聞きたいといったあなたの責任で聞きなさい」、「途中で口を挟むな」etc..と注文をつけるチューリング。
ここでグッと惹き込まれるわけだが、観終ってあらためて考えてみると、自信たっぷりにそんな思わせぶりなことを言える状況にチューリングは果たしてあったのだろうか。ドラマチックにするための演出が過剰で、全体にそぐわないような気はする。

自分の能力に自信を持ち、他人を見下す傾向がややあり、悪い人間ではないものの人づきあいが下手なチューリング。
チャーチルに手紙で直訴するという謎の行動力と説得力のおかげで暗号解読チームのリーダーにはなるものの、チームメンバーから信頼は得られない。

チームメンバーとの仲をつまく修正したのが、キーラ・ナイトレイ演じるジョーンだ。
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チューリングが想定していた以上のスピードでクロスワードパズルを解いたジョーン。飄々とした表情がチャーミング。

チューリングが、歴史に名を残すことができたうえでの最大の功労者は、間違いなくジョーン。

2年は第二次世界大戦の終結を早め、1400万人の命を救ったって、規模がデカすぎる。しかも、そのことを50年間も国家機密扱いにしていたとは想像を絶する。

歴史を変えた人物であるチューリング。
それなのに、ひどい扱いをされ、最終的には同性愛のわいせつ罪で逮捕されるという悲惨さ。
宗教の影響が強いからだろう。先日観た『パレードへようこそ』でもそうだったが、昔のイギリスは同性愛者に対しての寛容さがまったくなかったのだ。

 
暗号解読につながるヒントは、ひょんなところに転がっていた。
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ジョーンの同僚、ヘレン(タペンス・ミドルトン、左端)の話をヒントに、毎朝6時に発せられる通信に必ず含まれる、「天気」「ハイル」「ヒトラー」という3つの単語に照準を当てて解読に成功することとなる。
「天気」はともかく、「ハイル」「ヒトラー」が原因で負けが早まったことを知った関係者はどう思ったのだろう。

ちなみに、この直前の、「一度にっこり微笑みかけた後、無視をする」という方法をめぐってのヘレンとヒュー(マシュー・グッド)の恋のかけひきシーンには、ニヤリとさせられた。

苦労して苦労して苦労して苦労して、ようやく解読できたエニグマ。
しかし、真の苦難はその先に。
解読した事実はほんの一部の人にしか知らせずに、統計学を用いて、少しずつ戦局を有利に進める。このあたりがイギリスっぽい。少なくともアメリカっぽくはない。

 
ゲイであるチューリングとジョーンの関係性も興味深い。
チューリングはカミングアウトせずにジョーンと婚約していることに当然ながら罪の意識を持つ。しかし、ジョーンはその事を知っても意に介さない。
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なんとも幸せそうな表情のジョーンとチューリング。

作中に何度か登場し、印象的に使われる「誰も予想しなかった人物が誰も想像しなかった偉業を成し遂げる事だってある」というセリフ。
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確かに刺さるフレーズで、ラスト、ジョーンが、憔悴しきったチューリングにその言葉を捧げる。
よくよく考えると、天才数学者と認知されていたアラン・チューリングは、少なくとも”誰も予想しなかった人物”ではないだろう。
裏を返すと、そんな状況を客観的に考えられないほど、チューリングが自信をなくしているとジョーンが感じて、この言葉を送ったのだろう。
この言葉で、表情に生気が少し戻ったようだったが、現実のチューリングはこののち41歳で自殺している。なんともやるせない。

 
構成という面では、同性愛わいせつ罪で逮捕されたときの取り調べシーン、エニグマと格闘しているシーン、そして学生時代がいったり来たりするさまが、自然に作られている。非常に見やすい構成だ。

学生時代のチューリング(レックス・ロウザー)と、彼が密かに想いを寄せるモーコム(ジャック・バノン)の醸し出す雰囲気はいかにもというものだったが、作品に良いアクセントを与えていた。
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若いチューリングを演じるレックス・ロウザー(写真右)。今回はひ弱な役柄で、それはそれで悪くなかったが、目力が強いから他のタイプの役も見てみたい役者だ。

 
チューリングの一番の敵はといえば、暗号解読チームを組織したデニストン中佐。
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敵は憎たらしいほど、克服できたときに喜びが増す。そういう意味で、デニストン中佐を演じるチャールズ・ダンスは適役だった。

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大筋と直接的には関わらないが、子どもたちが防毒マスクをかぶっているこの絵面には、なんともいえない衝撃を受けた。

 
なお、原題の「イミテーション・ゲーム」とは、一連の質問に対する人間とコンピューターの回答を第三者に見せ、どちらがコンピューターの回答か分からない率が高いほどそのソフトが優秀とする判定方法のことをいう。警察での取り調べに対し、自分の答えは人間の答えか、それともコンピューターが出した答えか、どちらだと思うか尋ねるチューリング。この部分については、今あらためて思い返しても、その真意は正確にはわからない。チューリング流のユーモアなのだろうか。

 
さて。本作の内容を知ったうえで今私がしたいこと。
一つは、本棚にしまったまま読んでいない暗号解読関連の本を読みたい。
もう一つは、『Uボート』等のドイツ側から描かれたWW2ものの映画が観たい。

 
最後に、バージョン違いのチラシ・DVDパッケージデザインを紹介。
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香港版。このバージョンではチューリングが正面を向いている。

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日本語版。チューリングにズバっとスポットを当てているが、情緒はない。

<<追記>>
2011年BBC制作の『ヒトラーの暗号を解読せよ Codebreaker:Bletchey Park’s Lost Heros』というドキュメンタリー番組を、Amazon Videoで観た。
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本作と同じく、ロンドンにあった極秘施設ブレッチリー・パーク(Bletchley Park)が舞台で、ドイツ軍の暗号解読に寄与した二人の人物にスポットを当てている。

しかし、そこにチューリングは含まれておらず、エニグマよりさらに難解な「ローレンツ」(連合国側の呼び名はタニー)の解読に尽力した、ビル・タットとトミー・フラワーズが主人公。

何というか、『イミテーション・ゲーム』だけを観ていると、てっきり暗号解読チームは少人数で組織されており、アラン・チューリングが絶対的な唯一のヒーローかのような錯覚をしてしまっていたが、そうではないのだ。
おそらく、映画としては、チューリングが同性愛者で、逮捕されたという点でフィーチャーしやすかったということなのだろう。

『ヒトラーの暗号を解読せよ』は、暗号を解読していった具体的なプロセスにもいくつか踏み込んでおり、これはこれで興味深かった。

ドイツ軍の通信兵が、同じ内容の通信文を、暗号の設定を変えずに2度送ったことがきっかけで、解読につながったという。
ドイツ軍からしたら、一人の兵士の些細なミスが、あまりに大きな損害につながったというわけだ。

なお、「ローレンツ」の解読には、コロッサス(Colossus)という、事実上の世界最初の汎用コンピューターと言われているマシンが使われたのだが、チューリング自体はコロッサスの開発や改良には関わってはいないものの、チューリングが編み出した暗号解読の技法(Turingery)はコロッサス開発に取り入れられているし、コロッサスの開発者たるトミー・フラワーズをタニー解読チームに紹介したのもチューリングだという。

製作総指揮: グレアム・ムーア
製作: ノラ・グロスマン、イドー・オストロウスキー、テディ・シュワルツマン
監督: モルテン・ティルドゥム
脚本: グレアム・ムーア
原作: アンドリュー・ホッジェズ
撮影: オスカル・ファウラ
美術: マリア・ジュコビッチ
音楽: アレクサンドル・デプラ
衣装: サミー・シェルドン
出演: ベネディクト・カンバーバッチ(アラン・チューリング)、キーラ・ナイトレイ(ジョーン・クラーク)、マシュー・グッド(ヒュー・アレグザンダー、チェスチャンピオン、チューリングに噛みつく)、ロリー・キニア(ロバート・ノック刑事、チューリングを取り調べる)、アレン・リーチ(ジョン・ケアンクロス、ソ連の二重スパイ)、マシュー・ビアード(ピーター・ヒルトン)、チャールズ・ダンス(アラステア・デニストン海軍中佐、解読チームを組織、当初チューリングを追い返そうとする)、マーク・ストロング(スチュアート・ミンギス少将)、アレックス・ロウザー(学生時代のチューリング)、ジャック・バノン(クリストファー・モーコム、学生時代にチューリングが恋心を抱く)、ジェームズ・ノースコート(ジャック・ゴールド)、トム・グッドマン=ヒル(スタール巡査部長)、スティーヴン・ウォディントン(スミス警視)、イラン・グッドマン(キース・ファーマン)、タペンス・ミドルトン(ヘレン)、デイヴィッド・チャーカム(ウィリアム・ケンプ・ロウサー・クラーク)、ヴィクトリア・ウィックス(ドロシー・クラーク)
編集: ウィリアム・ゴールデンバーグ
製作会社: ブラック・ベア・ピクチャーズ、フィルムネーション・エンターテインメント(英語版)、ブリストル・オートモーティブ
配給: スタジオカナル(英)、ワインスタイン・カンパニー(米)、ギャガ(日)
公開: 2014年11月14日(英)、2015年3月13日(日)
上映時間: 114分
製作費: $14,000,000
興行収入: $208,521,672(内、日本は5億円)
 
@Amazon Prime Video