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小津監督の代表作。

『秋刀魚の味』『麦秋』『晩春』『おはよう』等、既に何作かは観ていたが、代表作たる本作はすれ違ったままだった。TSUTAYAで借りようとしても、在庫の本数と人気の高さの需給バランスが釣り合っていないのか、いつもタッチの差で借りられず。

Amazonプライムビデオのおかげで、ようやくこの日を迎えることができ、オンデマンドのネット配信の圧倒的な強みを感じることに(今さらではあるが……)。

 
尾道に住む老夫婦が、息子・娘を訪ねて、相当久しぶりに東京に出る。息子・娘の家に厄介になるも、子どもたちは歓迎しているようでいて、実際は厄介に感じている。

昭和28年の作品にして、老いた父親役の笠智衆はすでに歳をとっているように見える。設定は70歳、しかし、笠智衆の実年齢は49歳! 背中の曲がり方や、表情、喋り方などで、歳をとっているように見せる技術の高さに驚く。

長女志げを演じる杉村春子も小津作品の常連だが、嫌味のある役が本当にうまい。親は煎餅が好きだから饅頭なんて高いものは買ってこないでいいと旦那に言ったり、父親が泥酔して帰ってきたら頭をはたいて起こそうとしたり、「嫌になっちゃう、嫌になっちゃう」と何度も繰り返したり、などなど。

 
長男長女は結局上京中の親をたいして構わず、東京案内も、戦争で死んだ次男の嫁である紀子(原節子)にアレンジさせる。さらには、長男と長女は両親を熱海の温泉宿へ行かせて厄介払いをする。

両親としても、熱海で温泉に入ったまでは良かったが、その宿は多くの若者が泊まる宿で、深夜まで音楽の演奏があったり、宴会をしていたり、麻雀をしていたりと非常に賑やか。老夫婦は眠れないし、居場所がなく、すぐに東京に帰ることに。

 
戻ると、長女の家には泊まりにくい雰囲気があり、母は紀子の家に厄介になる。そこでも原節子演じる紀子は肩を揉んであげたり母に親切に接する。翌朝、母の帰りの際には、気持ちですとお小遣いまで渡すほど。

父は昔の知り合いを訪ね、そこで思いがけず別の知り合いも交えて飲むことに。子どもは思うようにならないものと悟ったと、知人(私の世代には水戸黄門の印象が強い東野英治郎)にこぼす。

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そして、尾道に二人は戻る。
すると、母がほどなく危篤となる。電報で知らされた長男長女と紀子は尾道へ。その翌朝に母は息をひきとる。葬式が終わった日の夜行で長男長女、そして三男は尾道を後にする。

長女はここでも、母の着物を形見にくれと言ったり、「熱海で母がフラッとしたんだよ」と父が話すと、それを兄さんに早く言えばよかったのにと言ったり、不粋の塊で、言わないでいいことをいちいち言う。この徹底したキャラクター設定はすごい。小津作品における杉村春子の役柄はだいたいいつもこうではないか。役者冥利に尽きるのかもしれないが、可哀想な気もする。

紀子は数日残る。次女の京子(香川京子)は同居しているが、彼女はまだ若く(おそらく信任の教師をしている設定)、紀子が残ってくれたことが父と次女にとってはありがたかったことだろう。

 
そして、おそらくここがクライマックス。

紀子が昼の汽車で尾道を出ることを義父に告げる。父は、実の子ども以上に、自分たちに優しくしてくれたことにお礼を言いつつ、あなたは良い人だから戦死した次男のことなど忘れて、お嫁に行くように伝える。
すると、紀子は、私はずるくて良い人なんかではない。日によっては元夫のことを思い出さないこともある。毎日何か良いことが起きるんじゃないかと期待しているんですと。その事を義母には言わなかったと告白する。すると父は、やはりあなたは正直で良い人だと言う。

二人のやりとりを文字だけで見ると、昔っぽいわざとらしいやりとりのようにも見えるが、笠智衆と原節子、そして小津の手にかかると、それまで溜まりに溜まっていたモヤモヤが、このシーンで一気に晴れる気がする。

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そして、原節子の気品と、日本人離れした容貌は、時代も国も超えていることがあらためて理解できた。

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このデザインが一番有名であろう、紀子と京子バージョンのチラシのデザイン。

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こちらは、義父と紀子バージョン(このシーンは作中には登場しないはず)。

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こちらは、英語バージョン。義父と紀子。
このシーンは登場する。

 
なお、この映画の特徴というわけではないが、時代背景として、昔の方が、今よりも人と人の心の距離が近いのかなと思わせるシーンが散見された。

例えば、長女志げのズケズケとしたもの言い。また、志げは美容院を営んでいるが、家と美容院の出入り口が同じで、客がいるときでも、店の中を通って親夫婦や旦那が行き来するのが新鮮。客も特に驚いてはいない。
紀子も、義父母を急にアパートに迎えることになった時は、隣室へお酒と徳利とお猪口を借りに行く。自分がそんな暮らしをしたことはないが、なんか懐かしい気持ちにはなる。

 
映画って、その作品によって、どのぐらいの年齢の時に見たほうが良いというものがある気はする。
この作品に限らず、小津の作品は、もちろん若い時分に見ても楽しめる面はあるが、芯から感じ入れるのは、四十代以降ではないだろうか

自分も歳をとってそれを痛感した。
そう、きっと小津映画は大人が観るための映画なのだ。

@Amazonプライムビデオ

製作:山本武
監督:小津安二郎
脚本:小津安二郎 / 野田高梧
撮影:厚田雄春
美術:浜田辰雄
音楽:斎藤高順
衣装:斎藤耐三
出演:笠智衆 / 東山千栄子 / 原節子 / 杉村春子 / 山村聰 / 三宅邦子 / 香川京子 / 東野英治郎 / 中村伸郎 / 大坂志郎 / 十朱久雄
製作会社:松竹大船撮影所
配給:松竹
公開:1953年11月3日(日)
上映時間:136分
興行収入:1億3000万円